
No.054 再びラグランスリーブの作図 その1
実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲
- 学習・知識
アパレル工業新聞 2026年1月1日発行 7面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。
4回も続けてしまった「ドロップショルダーの作図」の次に何をテーマにしようか考えましたが、やはりドロップショルダーの流れから行くと、次はラグランスリーブだよね。ということで、今回はラグランスリーブをテーマにします。
ラグランスリーブについては、すでに第17回(2019年9月号)と第18回(2019年10月号)で取り上げています。その時は私が考案した従来とは全く違う画期的な作図法を紹介しました。その作図法の特長は、従来よりも精度が高いことと、CADとの親和性が高いことです。普段CADを使っているパタンナー諸君には是非試していただきたい作図法です。ただ、操作が少々ややこしく、慣れるまでに多少時間が掛かるのが難点でした。
そこで今回は、なるべく変わったことはせず、従来からよくある一般的な作図法を踏襲しつつ、より効率の良い方法でラグランスリーブを攻略してみようと思います。
さて、今回のラグランスリーブは何回続くのでしょうか…。
1.袖の傾斜度と山の高さの関
ラグランスリーブの作図において一番悩むことは何か?それは袖の傾斜(角度)によって袖幅線の位置(袖山の高さ)をどこに設定したらよいか、ということだろう。セットインスリーブに身ごろのラグラン部分を切り離してくっつける方法ならそのような悩みはないだろうが、大半は平面製図で引いているのが現実と思われるので、この悩みを解決することを今回の主たる目的とする。そこで、まずセットインスリーブの場合における袖の傾斜と、袖山の高さの相関関係をまとめてみることにする。尚、検証は3Dによるシミュレーションで行った。
【1-1】セットインスリーブの袖の傾斜度を比較した3D画像。
① 肩傾斜の延長。袖山の高さ=AHの10%。
② 傾斜度45度。袖山の高さ=AHの20%。
③ 傾斜度30度。袖山の高さ=AHの30%。
④ 傾斜度20度。袖山の高さ=AHの36%。
![実践!レディース・パターン教室54[1-1]](/shared/images/community/column_kikuchi_54-1.jpg)
――この検証結果は、第50回(2025年5月号)の「ドロップショルダーの作図」で検証したものと同じである。
ひと口にAH(アームホール)と言っても、縦に長かったり横に広かったり、その形は様々である。この表で定めた袖山の高さは一般的な形状のAHを前提としているので、数値に関してはあくまで目安としていただきたい。また、なるべく煩雑にならないように、簡潔にきりがいい数値に丸めている。
2.ラグランスリーブの作図
袖の傾斜と袖山の高さの関係は分かったが、実際にラグランスリーブを作図するときの製図上の袖の角度は、外観上の袖の傾斜度とは異なる。そこで、袖の傾斜度、製図上の袖の角度、袖山の高さの3つの数値の相関関係を表にまとめた。実際の作図においては角度の設定があるので、手で引く場合は分度器が必要である。この点からもCADでの作図を推奨したい。
念を押すが、この作図法は精度の高さを求めるのではなく、それぞれの数値をある程度決め込むことで、無駄な試行作業をしなくても済むようにすることが目的なので、精度については実践していく中で高めていっていただきたい。
【2-1】ラグランスリーブの作図用に、袖の傾斜度と製図における袖の角度、そして角度に対応した袖山の高さの相関関係を表にしたもの。この表の数値を基にして作図をする。
![実践!レディース・パターン教室54[2-1]](/shared/images/community/column_kikuchi_54-2.jpg)
――前袖線の角度[R]に関しては、標準的な肩傾斜(20度前後)を基準に設定しているので、肩傾斜が標準値でない場合は、その差分を加減する必要がある。また、袖山の高さ[V]は36%を限度とする。
【2-2】ラグラン線を設定した身ごろのパターン。
肩先は前後とも5ミリ持ち上げておく。ラグラン線の引き方に特に決まりはないので、従来の要領で引けばよい。
【2-3】▼前肩先を延長する。延長量[i]は袖の傾斜度により0~3センチの範囲で調整する。
▼前袖線を引く。傾斜度[R]は前肩線の延長線を引き、そこからの角度で決める。
▼袖幅線を引く。傾斜度[R]に対応した袖山の高さ[V]から[i]を差し引き、前袖線の頂点からその寸法の位置に直角線を引く。
![実践!レディース・パターン教室54[2-2][2-3]](/shared/images/community/column_kikuchi_54-3.jpg)
【2-4】▼袖底のカーブを引く。ラグラン線と同寸になるように袖幅線上まで線を引く。
▼肩先をカーブで引き直す。
【2-5】▼後ろ肩先を延長する。延長量は[i]より5ミリプラスする。この5ミリは縫製時にいせる。
▼後ろ袖線を引く。傾斜度は[R]から10度マイナスした角度にする。(この角度は後ろ身ごろの身幅により加減する)
▼袖幅線を引く。前袖幅線と同じ位置に直角線を引く。
【2-6】▼袖底のカーブを引く。ラグラン線と同寸になるように袖幅線上まで線を引く。この時、ラグラン線と5ミリ~1センチ隙間を開ける。
▼肩先をカーブで引き直す。
【2-7】袖底のカーブが身ごろのカマ底のカーブと合っているかチェックする。
――ラグラン線は身ごろ側と袖側で同寸が基本だが、袖側を多少長くして、その分をいせにしてもよい。その際、無理のないいせ分になるように調整する。
【2-8】それぞれの傾斜度で作図をしたパターンを3Dで検証した画像。
セットインスリーブとほぼ同じ傾斜度になることが確認できる。
3.後ろ肩先をいせる理由
ラグランスリーブに限らず、続き袖全般に言えることは、着用時に肩が後ろに抜け易いことである。その対策として、あらかじめ肩線を前に移動することが半ば常識的に行われているが、肩線を移動しても後ろに抜けるのを防ぐことはできない。抜けた状態で肩の縫い目を元の位置に移動しているだけである。
防止策として有効なのは、とにかく袖を前に振ることである。そのためには後ろ袖線の傾斜度を緩くすることと、後ろ肩先が突っ張らないようにゆとりを入れてやることである。ただし、後ろ袖線の傾斜を緩くするには後ろ身ごろの身幅を相応に出す必要があり、バスト寸法の前後のバランスが変わってくることを留意しなければならない。その件については次回に説明しようと思うが、ここでは後ろ肩先にいせを入れることで袖を前に振る方策をとった。
【3-1】後ろ肩先をいせる理由を表した3D画像(上面)。
【3-2】後ろ肩先をいせる理由を表した3D画像(側面)。
――肩線を同寸で縫った場合より、後ろ肩先にいせを入れることでゆとりが入り、袖を前に振ることができる。もし、この状態から肩線を前に移動したら、いせ量が更に増えることになる。いせが入りきらないからと言って後ろ肩先をたたんでいせ量を減らすのは本末転倒、袖は後ろに振れる羽目になってしまうのだ。

