実践!レディース・パターン教室17(ラグランスリーブの作図 その1)~アパレル工業新聞コラボ企画~

パターンメイキングをアパレルCADで実践

  • 新聞掲載

アパレル工業新聞 2019年9月1日発行 5面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

こ皆さんはラグランスリーブに対してどのようなイメージを持っているでしょうか?恐らく多くの人が、着易く動き易い機能的な袖と思っているでしょう。私も若かりし頃からラグランスリーブは着易く動き易い機能的な袖だとずっと思っていました。また、ラグランスリーブは人間工学によって計算された構造であるとか、たすき掛の原理の応用であるといった、あたかも科学的な根拠があるかのようなことも誰かから聞いた記憶があります。しかし、実際にラグランスリーブのパターンメーキングをしていくにつれ、それまで習ってきた作図法に疑問を感じてきたと同時に、着易く動き易い機能的な袖というイメージにも疑問を抱くようになってきたのです。 そこで今回は、そもそもラグランスリーブはどのようにして生まれたのか、また、巷の教科書に載っているラグランスリーブの作図法は本当に正しいのかを考えてみます。そして、私が考案した今までとは全く違う画期的な作図法を紹介します。これを読めば、ラグランスリーブに対するイメージがちょっと変わるかも知れませんよ。

1.ラグランスリーブの由来

ラグランという名称は人物の名前が由来であることは知られている。ここからはウィキペディアからの引用になるが、イギリス軍人であり貴族でもあったラグラン男爵という人物について紹介する。

【写真1】フィッツロイ・ジェームス・ヘンリー・サマセット初代ラグラン男爵像。ワーテルローの戦い(1815年)で右腕を失ったラグラン男爵の注文により、コートの袖が彼に合うようにデザインされたことから名付けられた。 【写真2】晩年のラグラン男爵像。写真の上着はラグランスリーブではないが、現物を着た写真が残されていないのが残念である。よくラグランスリーブの歴史はトレンチコートの歴史と関係が深い話を耳にするが、トレンチコートが誕生したのは第一次世界大戦(1914年)なので、それより100年以上前からラグランスリーブが存在していたことになる。

【写真2】抜き襟にして着せた状態。スキッパーなので襟が左右に大きく広がっている。

――ここで筆者が言いたいのは、ラグラン男爵が片腕でも着脱がし易いコートを注文し、そのためにアームホールの縫い目がないデザインの袖が採用されたということである。ラグランスリーブの最大の特長は着脱のし易さであり、動き易さなどの機能性に対する科学的な根拠があるかどうか些か疑問である。その疑問の根拠を次に説明する。

 

2.ラグランスリーブは着易い袖ではない

着脱のし易さも立派な機能性であり、広い意味では着易い袖と言えるかもしれない。しかし、着易さの定義を着心地や動き易さまで含めるのであれば、ラグランスリーブは決して着易い袖とは言い難い。その根拠を示すために、セットインスリーブと対比させてラグランスリーブが抱える構造上の問題点を指摘する。

【図1】セットインスリーブのパターンと、アームホールとの間に出来る空隙を表した図。セットインスリーブは、この袖山の形状がアームホールに縫い付けられることにより、肩から腕を包む立体的なシルエットを構築する。

【図2】セットインスリーブと身頃を合体してラグランスリーブにした図。
①は身頃との隙間が完全になくなるように合体した状態。袖山とアームホールが大きく重なっている。
②は袖山とアームホールが重ならないように合体した状態。肩先に大きな隙間が空いてしまう。

【図3】①と②の状態をセットインスリーブの袖山の形状に戻すとどうなるかを表した図。
①は袖山の上部が大きく削り取られ、尖った形状になっている。
②は袖山の頂上が股割れし、余計な三角の出っ張りが出来ている。

――ここで筆者が言いたいのは、もしこれらの袖をセットインスリーブとして縫い付けたらどうなるか。袖のシルエットが崩れるばかりか、さぞ着心地の悪い袖になるであろうことは容易に想像できる。これはラグランスリーブだけではなく、身頃続きの袖全般に言えることである。

3.どのパターンが正解?

巷にはラグランスリーブの作図法が様々存在するが、それらの方法の良し悪しはトワルを組んで確認するまで分からない。しかし、ラグランスリーブのデザインにはサイズの大きいコート類が多く、大抵の場合はパターンの正確さや整合性より、バランスやイメージを重要視してパターンを引いているのが現実である。多くのパタンナーが誤解している部分があるかも知れないので、ラグランスリーブの基本的なパターン形状を理解しておこう。

【図4】ラグランスリーブの3つのパターン。どのパターンが正解か?
[A]は前袖とラグラン線に隙間があるパターン。
[B]は後ろ袖とラグラン線に隙間があるパターン。
[C]は前後とも隙間がないパターン。
解は[B]である。[C]も間違いではないが、精度の高いシルエットを追求する場合には当てはまらない。では何故、[A]ではなく[B]が正解なのか、次の章で検証する。

4.パターン展開によるラグランスリーブの作図

ラグランスリーブの構造がよく分かるように、パターン展開による作図で説明する。構造上の特徴を知ることは、少しでも着易い袖にするために非常に重要なことである。セットインスリーブから、どのようにラグランスリーブが出来上がるのかを、目で見て確認しながら作図してみよう。

【図5】身頃と袖のパターンを使用する。※袖山の高さはラグランスリーブの傾斜度が約30度(傾斜の限界値)になるように、アームホールの30%の高さとしている。

【図6】▼肩のゆとり分を展開する。※ラグランは肩先が突っ張りやすくなるので、必ずゆとりを入れる。
▼身頃にラグラン線を入れて分割する。
▼袖山のイセをたたむための展開線を入れる。※展開線は袖山に対してほぼ直角になるように入れる。

【図7】▼袖を中心線で分割し、袖山のイセ分をたたむ。
▼身頃から分割した肩部分と袖を合体する。合体する際、袖山との間に隙間が空かないように、肩部分の下から1~2センチのところに展開線を入れてラグラン線側をたたむ。※たたんだ分は伸ばしにする。
▼袖山の上部が肩部分と重なるが、重なり分が前後とも同じになるようにする。
▼肩先は前後とも隙間が空くが、後ろの隙間が前より5ミリ程度広くなるように、後ろ肩部分に展開線を入れてラグラン線側を開く。※開いた分はイセにする。

【図8】展開が終わった袖と身頃を合わせる。後ろ袖とラグラン線の間に隙間が空いているのが分かる。従って、前章の[B]のパターンが正解となる。

――セットインスリーブからラグランスリーブに展開していくと、必ず重なる部分や隙間が空く部分が発生する。重なった部分は突っ張って着心地を損ね、隙間が空いた部分は不要な余りとなってシルエットを損ねる。コートなどはゆとりを大きくとることで着心地やシルエットへの影響は緩和できるが、タイトなシルエットになるほど影響が顕著に出る。これがラグランスリーブが抱える構造上の問題点である。
次回は平面製図によるラグランスリーブの作図を紹介する。