No.041 間違いだらけのワンピースのパターン
実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲
- 学習・知識
アパレル工業新聞 2023年9月1日発行 5面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。
前回に続き「間違いだらけの…」というタイトルにしましたが、このフレーズは1970年代に某有名な自動車評論家のベストセラーになった著者「間違いだらけのクルマ選び」から拝借しております。因みに、この自動車評論家は既に他界しておりますが、氏の著書は当時の日本のモータリゼーションに多大な影響を与え、このフレーズが一時流行になりました。
余談はさておき、今回ワンピースをテーマにしたのは、4面体同様ワンピースも衣服設計における基本が疎かになっているパターンが散見されるからであります。身ごろとスカートをくっつけただけの簡単なパターンじゃないかと思いきや、上下を1枚続きで作ることの難しさを忘れてはいけません。考えてみたらブラウスもジャケットもワンピースも、着丈が長いか短いかだけの違いであって、どれも基本構造は一緒なのですよ。そこのところを改めて解説したいと思います。
1.よく見るワンピースのパターン
【図1】最もシンプルなワンピースのパターンである。手法としてはストレートの身ごろ原型を基にして、丈を伸ばし、ウエストダーツを入れて脇でウエストを絞った作図である。何度も言うが、バストラインが水平であることが既に間違っている。これを実際にトワルで組んでみれば分かることだが、まともには組めないはずである。組めると思っている人は、シルエットの崩れを見抜く目がないことになる。
【画像1】着装シミュレーションソフトで着せ付けた3D画像。生地の物理的特性を緩和してシルエットをある程度滑らかに補正してくれる3Dソフトでさえ、明らかなシルエットの崩れが見られる。まず後ろアームホール(矢印の部分)が腕の付け根に被っている。後ろ中心が背中のくびれに沿わず、脇線が前に振れている。
2.正しいパターン
【図2】ボディ原型の展開にならい、後ろアームホール丈を長くするためにストレートの身ごろ原型を展開した図。この操作はブラウスの時と同じである(第38回「ブラウスのパターンの要点」を参照)。
【図3】展開した原型を基にワンピースの作図をした図。バストラインが後ろ中心で上がった差寸を後ろ身ごろのウエストで落とし込んでいるのがポイント。※後ろ中心は接ぎになる。
【画像2】正しいパターンの3D画像。シルエットの崩れがなく、アームホールの形状も正常である。
3.よく見る裾がフレアーのワンピースのパターン
【図4】ウエストをダーツで絞った裾がフレアーのワンピースの場合、やはりこのようなパターンをよく見掛ける。これはもう到底無理なパターンとしか言いようがない。理由はもはや言わずもがなであるが、このパターンが成立するのはニット素材の時だけである。
【画像3】よく見る裾がフレアーのワンピースの3D画像。フレアーが横に広がったイカのようなシルエットになっている。こうなることはパターン形状から容易に想像がつくだろう。更に、後ろアームホール(矢印の部分)が腕の付け根に被り、脇線が前に振れている。
【図5】このパターンをボディ原型に置き換えて表した図。ウエストで絞った身ごろにフレアースカートが合体できるはずもない。このシルエットを作りたいのであれば、当然それに合ったデザインとパターンの構造が必要になる。
4.正しい構造のパターン
【図6】裾がフレアーのワンピースのためのパターン構造を表した図。この図のようにプリンセスラインかパネルラインなどの4面構造が必要になる。
【図7】4面構造で裾フレアーのワンピースの作図をした図。後ろアームホール丈を長くする操作をすることで後ろ脇身ごろの傾きが変わり、見掛け上の肩ダーツ量が減る。この操作はプリンセスラインのジャケットの時と同じである(第40回「間違いだらけの4面体パターン」を参照)。更に、前後中心を接ぎにするのであれば、前後中心にもフレアーを入れることで、よりフレアーが均一に出るようになる。
【画像4】4面構造のパターンの3D画像。裾のフレアーが均一に出ている。アームホールの形状も正常である。
――今回は実物のトワルは作らず、3Dだけでシルエットの検証を行った。シーチング代はかからないし、組み立てる時間も節約できて、なんと楽ちんなんだろう。筆者は兼ねてから3Dでパターンの教育が変わると思っている。そうなれば「間違いだらけ」もなくなるのではないだろうか。早く造形実習の現場に本格的に取り入れたいものだ。