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No.034 袖のパターンメーキング(その2)

実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲

  • 学習・知識

アパレル工業新聞 2022年7月1日発行 4面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

前回はジャケット、ブラウス、シャツの3種類の袖山を作図しました。また、これらの袖山の高さを決める基準として、アームホール寸法のパーセンテージ(百分率)を用いる方法を紹介しました。
袖のパターンを引く際、アイテムやデザインによって袖山の高さを決めるのは悩ましいものです。教科書や参考書にはいろいろな袖山の高さの導き方が載っていますが、すべての方法は所詮目安でしかありません。
ならば、もっと単純で分かり易いパーセンテージを基準にするのがよいというのが私の考え方です。前回のアイテムによるパーセンテージはあくまで私の基準です。皆さんも自分の基準でパーセンテージを決めてみては如何でしょう?
さて、今回は袖山の高さによる袖の「傾斜」について、もう少し深掘りします。今回テーマにするのは袖の「運動機能」です。袖の傾斜と運動機能の関係はどうなっているのか、ここに焦点を当てて考察しましょう。

4.袖山の高さと振れ角

袖を前に振る際、前回の袖の作図では袖山の高さに関わらず、カマ底点を通る袖中心線を山の頂点で1㌢振った。しかし、この方法だとカマ底点は動かないので、山が低くなるほど袖中心線の振れ角が大きくなる。では何故、袖の振れ角を角度で決めるのではなく、山の頂点の寸法で決めているのか?その理由を説明する。

【4-1】高さの違う袖山を、それぞれの頂点で1㌢振った振れ角の差を表した図。袖山が低くなるほど振れ角が大きくなっている。

実践!レディース・パターン教室34[4-1]

【4-2】これらの袖のパターンを実際に付けるとどうなるか?それぞれの袖の振れ角を比較するため、同一の身ごろに袖を重ねて付けてシミュレーションした3D画像。真横から見ると、袖口の位置が垂直線上に並んでいるのが分かる。

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【4-3】一方、袖の振れ角を角度で統一したらどうなるか?分かり易いように、袖の振りと傾斜を分度器に例えて表した図。分度器の目盛りを袖の傾斜度とし、ABCをそれぞれの袖口の位置とする。分度器を傾けて据えることで袖を前に振った状態とする。ABCの位置は分度器の平面上にあるので、傾斜度が大きくなる(腕が上がる)ほど袖口の位置は後退することになる。

実践!レディース・パターン教室34[4-3]

――人間の腕を真横に振り上げると、意識をしない限り手首の位置は真横から見て垂直に上がる。(これに関しては次の項で説明する。)つまり、袖の状態は【4-2】のようにならなければいけない。これが袖を前に振る際、振れ角を角度で決めるのではなく、山の頂点の寸法で決めている理由である。

5.腕の外転と肩傾斜

『人間の腕は30度しか上がらない』

腕の外転とは、腕を真横に振り上げる動作のことで、袖に例えると袖の傾斜度に当てはまる。袖は、袖山の高さを変えれば傾斜度が変わり、人間の動作に必要な運動量に対応することができる。しかし、実は人間の腕は、真横には30度程度しか上がらない。それ以上上げると、腕と一緒に肩が持ち上がってくるのである。両腕を最上段まで上げると、両肩は耳に付きそうになるくらいに持ち上がるのは想像できるであろう。従って、袖の傾斜度を決める際には、肩傾斜のことも併せて考える必要がある。

【5-1】袖山の高さをパーセンテージ別に傾斜度を比較した3D画像。袖山25%の傾斜度はおよそ40~45度である。求める傾斜度が何パーセントであるかを知っておくと、袖の設計の際に役立つはずである。

実践!レディース・パターン教室34[5-1]

【5-2】人間の腕の外転と肩傾斜の関係を見る画像。30度程度までなら肩は持ち上がらないが、それ以上外転が進むと肩も一緒に持ち上がる。

【5-3】傾斜度45度(袖山25%)の袖が付いた服をアバターに着せ、腕を袖の傾斜度まで外転させた状態の3D画像。肩が持ち上がるので、身ごろ全体が持ち上がって襟ぐりが浮いているのが分かる。

実践!レディース・パターン教室34[5-2]実践!レディース・パターン教室34[5-3]

――袖山を低くすれば腕は上がり易くなる、という単純なことではない。本当に運動機能を考えたパターン設計では、袖山の高さに応じて肩傾斜も変えなければならない。但し、肩傾斜を上げると襷(たすき)シワの発生や、服が後ろに抜け易くなるなどの弊害もあることを周知しておく必要がある。

6.袖下のマチによる運動機能

では、動き易い袖とはどんな袖か?単純に袖山を低くしただけでは腕を上げると身ごろ全体が持ち上がることは前述した通りだが、袖山の低い袖は腕を下したときのシルエットは勿論、着心地にも決して良い影響を与えない。では、シルエットと動き易さを両立した袖を引くにはどうしたらよいか?その方法を説明する。

【6-1】袖山が低い袖を着るとどうなるかを表した図。腕を下した状態で袖山の縫い目をほどけば、当然袖山と肩は口が開く。これを元に戻そうとすれば、袖山が引き上げられて袖下がたるみ、肩は袖に引っ張られて肩先が突っ張る。カマ底も引き上げられるので脇の下がきつく感じる。決して着心地がいい状態とは言えない。

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【6-2】袖下マチの考え方①。そこで、袖を外袖と内袖に分け、外袖の山を高くしてシルエットを保ち、内袖の山は低くして傾斜度を上げる。こうすることで、着心地を損ねることなく動き易い袖となる。これが袖下のマチの考え方である。

【6-3】袖下マチの考え方②。袖下マチの考え方をパターンで表した図。外袖の山を36%、内袖の山を30%で作図をして、それらを合体する。

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【6-4】マチの展開例①。袖底を跳ね上げてマチ分を出す方法。空隙部分がマチ分になるが、必要以上に分量が大きくなる箇所がある。

【6-5】マチの展開例②。袖下線を上に延長してマチ分を出す方法。袖底の寸法が短くなるので、その分は伸ばす。

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【6-6】袖底を跳ね上げたマチの3D画像。右は腕がある状態。左は腕がない状態。シワが大きく外観は劣るが、腕は全方向に上げ易い。

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【6-7】袖下を延長したマチの3D画像。シワが少なく外観に優れるが、運動機能はやや劣る。

実践!レディース・パターン教室34[6-7]

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