No.030 パンツの構造理論とパターンメーキング その８

アパレル工業新聞　2021年11月1日発行 3面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

10D．平面製図によるパンツの作図（インタックパンツ）

前回の外向きタックに対して、内向きタック（インタック）の作図法も追加しておく。基本は外向きタックと全く同じなので、途中工程を省略して要所だけを要約して説明する。

【10D－１】某ハイブランドのパンツ。内向き１本タックで、ややワイドなシルエットでありながらが股ぐりがフィットしているのが特徴。このシルエットを再現するポイントは、脇線をなるべくまっすぐにすることだが、逆に内股のカーブがきつい形状になる。この写真のようなきれいなシルエットを出すには、せん断の甘い生地を使用することが条件になろう。

【10D－２】▼前スカート原型のダーツの長さをＨＬ（ヒップライン）まで延長する。このとき、山折り線が垂直になるようにダーツの角度を変える。
▼脇側のダーツは消す。
【10D－３】後ろスカートのウエストとダーツを脇側に１センチスライドする。
【10D－４】前スカートのダーツを求めるタック分量になるよう水平に展開する。このときのＨＬ上での隙間をａとする。

【10D－５】股ぐりゲージのヒップの厚みをａの２分の１を目安に広くする。
【10Ｄ－６】▼股ぐりゲージのＨＬに、前後のスカート原型のＨＬを合わせる。このとき、前中心線は垂直に、後ろ中心線はウエスト位置で３センチ倒す。
▼ＣＰ（クロッチポイント）は前から５分の１に設定する。
▼後ろの渡りを２センチ狭くして股ぐり線を引き直す。

【10D－７】▼前脚部のＣＬ（クリーズ）はタックの山折り線に合わせ、後ろ脚部のＣＬは渡り幅の中央から３センチ脇側に合わせる。
▼以下、前回と同様。

【10D－８】左右反転した完成パターン。

――内向きタックは外向きタックと見え方が違ってくるため、タックの位置を変える必要がある。大抵の場合は、外向きタックより左右の間隔が広く見えるので、タック位置を中心側にずらした方がよい。すると、クリーズの位置もずれるので、それに伴って股ぐりゲージのＣＰの位置、すなわち股下線の位置も変わってくることになる。
最後に、タックパンツの作図の要点をまとめる。

【タックパンツの作図の要点】
■タックは平行に開く。
■渡り（ヒップ厚）は通常より広くする。
■ＣＰの位置はタックの位置によって変える。
■ヒップのゆとりが増えた分、脇線のカーブを緩くする。

11．体型別シルエットの検証（３Ｄシミュレーション）

次に紹介する画像は、３Ｄ着装ソフトによる体型の異なるアバターに着装したパンツのシルエットの比較である。ここで着装しているパンツはすべて同一のパターンを使用している。このシミュレーションでも分かるように、同じパターンでも体型の違いによってシルエットが全然違ってくる。どんな体型の人が履いてもきれいなパンツを作る手段としては、前述したように素材に頼るしかないが、それも限度がある。パターンでどこまで解決できるかを考える上でも、しっかり検証しておく必要がある。 他にも様々な体型と、それによりシルエットに問題が生じる事例があるが、ここでは代表的な３つの体型について検証しよう。

【11－１】標準体型
　３ブロック構造理論により、ヒップ下に僅かな余りがあるのと、パンツの後部がふくらはぎに当たることにより、膝の裏に溜まりじわが出ている。この場合、運動量とシルエットのバランスがとれたシルエットとして容認できるレベルかどうかの判断が、パンツの設計の難しいところである。

【11－２】反身体型
　ヒップ下の余りが消え、ふくらはぎへの当たりもなく、脚部が垂直に落ちている。バックスタイルに限って言えば美しいシルエットに見えるが、前側は小股が浮いて余りが出ている。反身体形は骨盤が前傾しているので、脚は垂直に立っているように見えても、骨盤との角度で見れば脚を前に蹴り出した状態と同じである。従って、既にパンツが運動をしている状態と言うことができる。小股の余りを取るには『10Ｂ．（スリムパンツ）』の章を参照されたし。

【11－３】屈伸体型
　骨盤が後傾し、脚が後方に大きく傾斜しているので、ヒップが下がったうえにふくらはぎがパンツの後部に強く当たり、ヒップ下に大きな弛みじわが出ている。パンツのシルエットとしては最も美しくない状態と言える。このような体型に合わせてパターンを設計することは、この構造理論を用いれば簡単に可能である。しかし、体型に合わせたパターンを作ることが美しいパンツを作ることにはならない。パンツに限ったことではなく、体型の欠点をカバーするパターンを作ることが重要である。

――さて、長らく続いたパンツのシリーズも、次回をもって最終回としたい。最後はパンツの様々なシワの原因と、パターンの修正方法について解説するので、どうぞお楽しみに。