実践!レディース・パターン教室20(ドルマンスリーブの作図 その1)

パターンメイキングをアパレルCADで実践

  • 新聞掲載

アパレル工業新聞 2020年3月1日発行 4面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

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ラグランスリーブ、ドロップショルダーの作図から続いて、今回はドルマンスリーブの作図です。ドルマンスリーブを辞書で引くと、「トルコ人の用いたドルマンという外套(とう)に見られる、袖ぐりが深くゆったりしている袖」という解説です。ネットで検索しても、やはり同様の解説文が出てきます。いったい「トルコ人の用いたドルマンという外套」とはどんなものだったのか、俄然興味が湧いてきます。そこで更にネットで「ドルマン―外套」と検索してみると、これが全くヒットせず、出てくるのは20世紀初期の軽騎兵が着ていた胸に肋骨をモチーフにした飾りのあるジャケットばかり。これもドルマンと呼ばれる軍服だそうで、いくら探してもトルコ人が着ていた外套らしきものは見つかりません。ついには服飾図書館に行き、服装史の文献をすべて調べてみるも、とうとうトルコ人が着ていたドルマンという外套を見つけることができませんでした。私は服装史の専門家ではありませんので、調べるのもこれが限界とあきらめています。もし、トルコ人が着ていたドルマンという外套が本当にあるなら、是が非でも知りたいものです。

とは言え、ドルマンスリーブはいわゆる「続き袖」の中における代表的な袖の種類であり、そのデザインは誰もが同じイメージを持っているほどポピュラーなものです。歴史まで知らなくても罰は当たりゃしませんよ。でも、せっかくなので私が調べた範囲でのドルマンに関する知識を少しばかり講釈することにします。そして、本題の作図ですが、キーワードは"アームホール"です。ドルマンスリーブのデザインはアームホールが無いことが特徴なのに、どういうことなのか?そこを分かり易く解説します。

1.ドルマンとは何か?トルコ人が着ていたのは?

ドルマンスリーブという袖は知っているが、ドルマンという服をご存じだろうか?トルコ人が着ていた服はどのようなものだったのか。一部ではあるが筆者が知り得ている範囲で紹介する。

【写真1】ドルマンと呼ばれる服でもっとも知られているのがこのジャケット。もとはハンガリーの軽騎兵が着ていた軍服である。当時の騎士には軽騎兵と重騎兵があり、軽騎兵とは馬に乗って偵察や奇襲を行う兵士のことで、そのため最小限の装備であるのに対し、重騎兵は鎧で重武装し敵を壊滅させるために戦う兵士のことである。ドルマンの特徴は胸に肋骨のような飾りがあることで、現代ではミリタリーファッションには欠かせないモチーフとなっている。

【写真2】ドルマンと呼ばれる女性用外套の一種。この絵の女性達がトルコ人かどうかは不明。ドルマンスリーブとは似ても似つかぬケープスリーブであるが、これが唯一、筆者が見つけたドルマンの画像である。

【写真3】カフタンと呼ばれるトルコの民族衣装。間違いなくトルコ人が着ていたもので、これがもっともドルマンスリーブの元型に近いデザインと思われる。しかし、どう見ても外套(コート)ではない。因みにカフタンは、ファッショントレンドでは主にドレスのデザインモチーフとして使われることがある。果たしてドルマンは、実はカフタンのことだったのか?

【写真4】カフタンの仕様図。随所に切り替えを入れて生地を無駄なく使うようにデザインされていることが分かる。我々が認識しているドルマンスリーブは身頃と1枚続きのデザインだが、本来はこの図のような切り替えがあったと思われる。

――名前の起源については謎が多い。誰かが命名して人為的に広めたものもあるだろうが、ドルマンスリーブに関しては自然に広まり定着した名前であろうと推測する。筆者は服の歴史に関してはまだまだ無知である。

2.ドルマンスリーブのアームホール

ドルマンスリーブには見た目のアームホールは無いが、設計上のアームホールが存在する。ドルマンスリーブを作図するうえで、誰もが前後の袖下線の長さが合わずに苦労した経験があるはずである。その要因は、アームホールの存在を想定せず、身頃と袖を分けて考えないために起こる袖の形状の不整合である。まずは次の図をご覧いただきたい。ドルマンスリーブは極端に大きなシャツ袖と考えれば、その構造は意外と単純であることが分かる。

【図1】前後身頃を肩線で突き合わせた状態で、肩先からウエスト位置までくり下げた深いアームホール(太線)を想定する。そこに最大袖幅の袖を付けたものがドルマンスリーブである。しかし、このままでは袖中心線が肩線の延長より後ろに振れているので、袖を回転する必要が生じる。

【図2】もし、アームホールはそのままで袖を回転すると、袖は斜めに歪んだ形状になり、袖下線の寸法にも差異が生じる。これが袖の形状の不整合である。

 

【図3】袖中心線が肩線の延長上になるように袖全体を回転する。すると、アームホールの脇線の位置は前方に移動する。この脇線の移動がドルマンスリーブの設計におけるポイントである。

【図4】更に袖を前に振るために回転すると、脇線の位置は更に前方に移動する。どんなに移動しても、袖の形状自体は変化していないので、袖下線の寸法変化も当然無い。

 

【図5】袖に傾斜角をつけるため、袖山を高くした状態。袖山の寸法はアームホールと同じにする。

【図6】袖を袖中心線で前後に分割し、それぞれを身頃のアームホールに突き合わせる。肩先には隙間が開くが、そこは自然なカーブで引き直す。

 

――デザイン上、どうしても脇線を移動できない場合、またはしたくない場合もある。そのために袖下寸法をあの手この手で合わせるのだが、アームホールを想定して設計をすれば、頭がこんがらがらがることはないのだ。

3."抜けない"ドルマンスリーブの条件

【図7】ドルマンスリーブの後ろ抜けを防止するために、肩線を前に移動した図。

――肩線の移動は半ば常識的に行われていると思う。筆者もドルマンスリーブのパターンを引く際は、あたりまえのように肩線を前に移動していた時期がある。肩線を前に移動することによって、この図のように前後の縦糸のつながり位置が変化し、力学的作用によって後ろに抜けるのを防止するらしい。この理屈が正しいかどうかはともかく、世の中の常識は時として真実を曇らせることもある。ドルマンスリーブなどの続き袖は何故抜けやすいのか?その本当の原因を探って明らかにする必要がありそうだ。それを探るために数通りのサンプルを作成して試着検討をした。その結果は次回に紹介する。