実践!レディース・パターン教室16(抜き襟シャツの検証)~アパレル工業新聞コラボ企画~

パターンメイキングをアパレルCADで実践

  • 新聞掲載

アパレル工業新聞 2019年7月1日発行 4面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

この原稿を書いている令和元年現在、巷には抜き襟のシャツやブラウスがあふれています。抜き襟(襟抜き)とは、シャツやブラウスを通常の着用状態から背中を下に引き、わざと襟や肩が後ろに抜けたように着こなすテクニックで、それによりオトナ女子をさりげなく演出する効果があります。近年のトレンドでオーバーサイズのビッグシルエットが台頭しているのも、こうした着こなしが流行する要因となっていると考えられます。 また、最近では抜けシャツと称して、初めから襟や肩が後ろに抜けるように設計された商品も多く見られます。私のような古い技術者から言わせてもらえば、抜ける服を作るなど言語道断。技術者として許せないことであります。しかし世の中の流行には逆らえません。いざ抜ける服を作れと言われたら、さてどうしたらよいか戸惑ってしまうのも事実です。恐らく同じように感じているパタンナーも多いのではないでしょうか。 そこで、今回は抜き襟シャツをテーマに、最近の抜き襟シャツの商品を例にして、パターン設計と抜き襟の関係を検証しようと思います。

1.抜き襟スキッパーブラウスの製図

まず、グローバル系ブランドのレディス用スキッパーブラウスを検証する。低価格のボリュームゾーン商品なので、抜き襟であることは謳っていないが、この商品のカタログページには、モデルが抜き襟に着こなしている写真が掲載されていた。

【写真1】普通にボディーに着せた状態。七分袖のオーバーサイズブラウスである。

【写真2】抜き襟にして着せた状態。スキッパーなので襟が左右に大きく広がっている。

【写真3】抜き襟背面のズームアップ。肩が後ろに抜けるのと同時に襟ぐりが広がり、襟が後ろに抜けている。

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【図1】抜き襟スキッパーブラウスの製図。※商品のデザインをもとに筆者が独自で作成。

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【図2】前後の天幅バランスの検証。製図では後ろ天幅がかなり狭くなっているが、普通に着たときの肩線の位置を基準にすると、前後の天幅バランスは正常値と言える。

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――製図を見る限り、このブラウスは通常のシルエットから肩線だけを後ろに回したパターンであることが分かる。普通に着ることを想定しているが、抜き襟にも着られるように設計したパターンであると言える。

2.抜き襟メンズシャツの製図

次に、セレクト系ブランドのメンズ用抜き襟シャツを検証する。抜き襟の波はメンズにも押し寄せているようだが、どのようなパターンになっているのか。

【写真4】通常の着用状態。オーバーサイズではあるが、普通のシャツである。

【写真5】襟の後ろ側のズームアップ。襟の後ろ中心を下に引っ張ったように襟が下がっている。

【写真6】側面から見た襟のズームアップ。肩は抜けていないが、襟だけが後ろに抜けて首から離れている。

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メンズ用抜き襟シャツを「パターンマジックⅡ3D」でシミュレーション

メンズ用抜きシャツをパターンマジック23Dでシミュレーション

襟を平置きにした状態。台襟はブーメランのように大きく曲がり、羽襟は外回りを相当たたんでいるのが推測できる。

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【図3】抜き襟メンズシャツの製図。後ろ襟ぐりが大きく下がり、台襟がブーメラン形状になっている。それに伴い羽襟も特異な形状になっている。※商品のデザインをもとに筆者が独自に作成。

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【図4】前後の天幅バランスの検証。製図上は正常値だが、仮に普通に着ようとした場合、肩線は大きく後ろに移動する。その結果、後ろ天幅が狭くなって、相対的に前天幅が広くなり、前丈も長くなる。

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――このシャツは普通のオーバーサイズシャツの後ろ襟ぐりを大きくくり下げて抜き襟にしている。実はこのシャツを購入したとき、ショップの店員から「このシャツは抜けた感じのデザインですが、普通に着ることもできます。」という説明を受けた。なにをかいわんやである。このシャツは初めから抜き襟にデザインされているのだ。どう着ようが普通に着られるわけありませんよ。

3.所見

流行とはいえ、こういうパターンを積極的に引くのは気が乗らない。しかし、流行のパターンを理屈抜きでかっこよく引ける感性が大事だと改めて感じる。短いがこれが筆者の所見である。
最後に、抜ける服を作るための3つの要素を記述しておく。

■前天幅をうんと広くする
■前丈をうんと長くする
■肩傾斜をうんと緩くする

――オーバーサイズであることが大前提だが、この3つのうちのどれかをやれば服は後ろに抜ける。3つとも全部やれば気持ちいいくらい抜けること請け合いである。