No.014 台襟付きシャツカラーの作図・・・その1
実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲
- 学習・知識
アパレル工業新聞 2019年3月1日発行 8面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。
ジャケット関係の比較的重いネタが続きましたので、今回は少し軽めにシャツの襟について考えてみようと思います。ジャケットと同様、シャツも元々メンズのアイテムですので、基本となるデザインは確立されているように思います。シャツの特徴的なディテールとしては、台襟付きシャツカラー(台襟と羽襟で構成された襟)や、シャツテール(中心が長く脇が短いカーブになっている裾)などが挙げられます。巷でよくシャツとブラウスの違いについて語られることがありますが、私はこれらのディテールがあるものをシャツと呼び、それ以外は全てブラウスに分類しています。
さて、皆さんはシャツの顔とも言える台襟付きシャツカラーのパターンをどのように引いていますか?そもそもシャツのパターン自体、殆どの人が囲み製図で引いていると思いますから、襟のパターンもお決まりの製図法で画一的に引いている人が多いのではないでしょうか。でもちょっと待ってください。襟は衣服を構成するパーツの中で最も顔に近い位置にあり、着る人の表情を良くも悪くもする極めて重要なパーツです。もっと論理的に作図する方法があってもいいはずです。
そこで今回は、台襟付きシャツカラーの構造を改めて考察して、従来の製図法とはちょっと違うロジックによる画期的な作図法を紹介します。
1.首の傾斜の違い
襟とは、身頃に縫着された頸部を覆う布である。故に襟の構造を解明するためには、まず首の形状を知ることが重要である。パターンを設計する際、反身体や屈伸体などの体型を意識することが多いが、首の状態を意識することは少ない。そこで、代表的な工業用ボディーを数種類用意し、各ボディーの首の状態を観察してみる。
【写真1】代表的なレディスの工業用ボディーの比較。どれも同じ9号サイズの標準体型だが、首の角度がそれぞれ異なっている。この角度の違いが、身頃の設計において極めて重要なBNP(バックネックポイント)とSNP(サイドネックポイント)の位置に大きく影響してくる。因みに、シャツに最も適したボディーは[D]である。理由は今回のテーマから離れるため割愛するが、シャツの機能を考えた場合の条件に最も適っているからである。
【写真2】代表的なメンズの工業用ボディーの比較。体格や寸法に差があるがどれもMサイズである。やはり首の角度がそれぞれ異なっている。因みに、シャツに最も適したボディーは、サイズ感を抜きにすれば[C]である。
――ここで言いたいことは、襟は頸部を覆う布であるから、ボディーによって襟のパターンは違ってくるということ。囲み製図で引いた襟は、果たしてどのボディーに適合するのだろうか?
2.台襟形状の種類
シャツカラーの土台となる台襟の形状はどんな種類があるか、また、それぞれの形状がどのように出来上がるのか考察する。台襟付きシャツカラーの設計において極めて肝要な部分であり、頸部を覆う襟の根本的な成り立ちとも言える。特にシャツの性質上、ネクタイを締めることを前提としていることも台襟の形状に大きく係ってくる。
【図1】シャツにおける台襟の形状を大きく3つに分類した図。
①は襟付け線が水平になっている形状。これを「ストレート型」とする。
②は襟付け線が前中心に向かって上にカーブしている形状。これを「反り型」とする。
③は襟付け線がSNPで一旦下がり、前中心に向かって水平または上にカーブしている形状。これを「スロープ型」とする。
【図2】レディスの工業用ボディー【B】を例にした頸部の展開図。この展開図が言わば襟の原型である。
【図3】ボディーの襟ぐり線を修正して展開図に反映した図。ボディーを真横から見ると、襟ぐり線が後ろ中心で下がっているものが多い。これをシャツの襟ぐりとして最適になるよう修正する。
【図4】修正した展開図を台襟のパターンへと展開した図。
①は展開図を台襟の高さにカットしたもの。これが最も首に沿った台襟の形状である。
②は①の台襟の襟付け線が水平になるように展開したもの。上端が開いた分だけ首との間にゆとりができるが、ゆとりの位置と量は不均等である。
③はゆとりが均等になるように展開したもの。
これらの形状を見ると、①は「反り型」、②は「ストレート型」、③は「スロープ型」であることが分かる。
――この3つの呼称は筆者が勝手につけたものだが、台襟の設計が如何に重要か理解できるはずである。この後に紹介する平面製図はこの論理をもとに考案したものである。
3.台襟付きシャツカラーの作図①(抜き取り展開)
まず紹介するのは抜き取り展開という方法である。これは平面上の襟ぐりに描いた台襟と羽襟のデザイン線を抜き取って、パターン展開によって作図する方法である。(実践!レディス・パターン教室06の「3.襟の作図①(抜き取り展開)」と同じ方法)
【図5】前後身頃を肩線で突き合わせて襟ぐり線をつなげて、台襟と羽襟のデザイン線を描く。前中心線は台襟の起き上がり分を見越して若干斜めにする。※数値は参考値。
【図6】返り線から直角に展開線を入れる。
【図7】羽襟部分を抜き取り反転する。
【図8】台襟と羽襟を展開して1枚襟にする。※台襟は「スロープ型」になる。
【図9】一枚襟完成。
【図10】一枚襟の返り線に直角に展開線を入れる。
【図11】台襟と羽襟を分離して返り線をたたむ。※たたむ位置と寸法はトワルを組んで立体上で決定する。※台襟の形状はたたむ位置と寸法によって変化する。
【写真3】一枚襟の返り線をピンで摘まんで首に沿わせたトワル。
【図12】台襟と羽襟のパターン完成。
――この方法は、まず一枚襟を作ってから台襟と羽襟に分割するので、2度手間がかかる。そもそも展開自体が大変な手間なので実践的ではないが、論理的に破綻しない襟のパターンが必ず出来るので、筆者は好んでこの方法を使っている。ただし、雰囲気まで表現できるかどうかは別問題である。
4.台襟付きシャツカラーの作図②(平面製図)
次は従来の製図法とはちょっと違う作図法を紹介する。何が違うかは【図3】で示したとおり、襟は頸部を覆う布であるという考え方に則って、ボディー原型の襟ぐり線を基準として台襟を作図することである。
【図13】▼襟ぐり線Eを描く。▼原型の襟ぐり線の前中心から3㌢のところに印を入れD点とする。※台襟の立ちを強くする場合はD点の位置を3㌢以下に設定する。
【図14】▼D点から原型の襟ぐり線に接する接線Fを引く。▼D点より後ろ側の襟ぐり寸法と同寸を接線F上に取る。▼台襟の後中心線を直角に引く。
【図15】▼接線Fと襟ぐり線Eをカーブでつなげる。※襟付け線が「スロープ型」になる。▼台襟の前中心線は起き上がり分の傾斜を付ける。▼台襟の上端線を引く。
【図16】▼台襟の後ろ中心から3~4㌢上がったところに向かって羽襟付け線のカーブを引く。▼ガイドラインとして羽襟付け線から羽襟幅の平行線を引く。▼後ろ中心からSNPまで平行線に沿って羽襟の外回り線を引く。
図13~16を「パターンマジックⅡ」で作図
【図17】台襟と羽襟の形状の関係を表した図。羽襟の付け線のカーブは台襟がスロープするほど台襟との差が開く。
【図18】台襟と羽襟のパターン完成。
――この方法は平面製図でありながら、ボディー原型の考え方が必須になっている。台襟付きシャツカラーをドレーピングで作る人は少ないと思うので、平面製図で精度の高いパターンを引きたい人は是非試していただきたい。
次回は台襟付きシャツカラーが抱える問題点と、その解決策について説明する。