国・地域の選択

No.013 ゴージダーツの作図

実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲

  • 学習・知識

アパレル工業新聞 2019年1月1日発行 8面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

ジャケット関係のパターンメーキングが続きますが、今回はゴージ(あご)ダーツについて考えてみようと思います。

そもそもゴージダーツとは何者で、何のためにあるものなのか?私も実は確信を持って言えない部分があるのですが、ダーツである以上はどこかの余分な浮きを縫い取るためのものであることは間違いないと思います。例えば、バストダーツの一部を前襟ぐりに逃がすことにより生じるラペル返り線の浮きを減らすため、という目的が一つあります。しかし、ラペル返り線の浮きは最終的な外観と着心地において必要な浮き分であるとして今まで説明してきたつもりですので、それを減らそうとすること自体本末転倒。わざわざゴージダーツを入れなくても、はじめからバストダーツの一部を襟ぐりに逃がさなければいい話です。だとすると、他に考えられるのは補正目的です。例えば、ハト胸や反身体、前裾の笑いやはだけなどへの対処法として有効と思われます。しかし、もし補正目的だとしたら、何故初めからゴージダーツの入った製図方法や商品が多く存在するのでしょうか。そう考えると、やはり確信が持てません。

いずれにしても、ジャケットにおけるゴージダーツは元々紳士服のもの。以前から公言していますが、私は紳士服に精通しているわけではありませんので、ゴージダーツについて偉そうに講釈することはできません。とにかくゴージダーツを入れたい、目的なんかどうでもいいじゃありませんかと開き直って、あくまでレディスのパタンナーの観点から、私流のゴージダーツの作図法を目的別に紹介します。

1.ゴージダーツの目的

ゴージダーツには主に次の目的が考えられる。

●ハト胸の補正

●反身体の補正

●前裾の笑い補正

●バストダーツの分散

バストダーツの分散については後述するとして、体型やシルエットの補正を目的としたゴージダーツについて説明する。

【写真1】襟ぐりから続いた長めのゴージダーツ。バストダーツの分散処理の一例である。

【写真2】前中心に入ったネックダーツ。単純に首回りの余分なゆとりを減らすためだが、これもゴージダーツの一つである。

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【図1】ハト胸補正の展開図。前中心に入ったネックダーツを移動してゴージダーツとして処理をする。

【図2】反身体補正の展開図。前丈を出すためにバストラインではなく胸幅の位置で展開してゴージダーツで処理をする。

【図3】前裾の笑い補正の展開図。返り線の余分な浮きをゴージダーツで消し取ることで笑いを防止する。

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――結局はどれも襟ぐり、または返り線の浮きをバストダーツに戻していることになる。つまり、体型補正を目的とするのであれば、基本的にはバストダーツで処理できることなので、ゴージダーツは必ずしも必要な手段ではないと筆者は考える。とは言え、ゴージダーツを否定していては話が進まないので、具体的なパターンメーキングの説明に入ることにする。

2.バストダーツの分散

3面ジャケットの場合、マニピュレーションによりバストダーツを処理するが、切りポケットがないデザインなどの理由でマニピュレーションができない場合は、ゴージダーツによってある程度の処理が可能である。ゴージダーツを入れる理由としては、最も理に適っていると言える。

【図4】バストダーツが残っている前身頃。※ラペルを返り線で切り落とした状態。

【図5】バストダーツの全量を返り線に逃がした図。返り線は直線で引き直す。※天幅が広がり、Vゾーンが広くなる。

【図6】返り線と平行にゴージダーツの展開線を入れ、任意の間口寸法になるよう展開する。※天幅が狭まり、Vゾーンが狭くなる。

【図7】ゴージダーツを任意に短くする。ゴージラインはダーツをたたんで引き直す。※斜線部分が余分な面積となり、浮きや膨らみになることを承知しておくこと。

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図4~7を「パターンマジックⅡ」で作図

【図8】ゴージダーツなし(図5のパターン)とゴージダーツあり(図6、7のパターン)の外観を比較した図。返り線の浮きはどちらも殆ど同じだが、ゴージダーツありの方が返り線の距離が短くなるため、全体の浮きは少なくなる。

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ゴージダーツあり・なしを「パターンマジックⅡ 3D」でシミュレーション

ゴージダーツあり・なしを「パターンマジックⅡ 3D」でシミュレーション

【写真3】珍しいゴージダーツの実例。なんと、ラペルの裏側にゴージダーツがあり、しかもバストトップに向かってT字のダーツまで入っている。【図6】の展開図をそのまま縫ってしまったようにも見える。恐らく補正の結果このようになったのだろうが、結果的にバストダーツを分散していることになる。

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――単純に考えれば、バストダーツをラペルの下に隠れる位置まで移動すればよいのだが、ダーツ量が多い場合はこのような展開をしてダーツを分散する必要がある。また、マニピュレーションをする場合でも、ダーツ量が多いとダーツ止まりがエクボになる可能性が高くなるので、ダーツ量を減らすために分散してゴージダーツにするケースもある。このように、パターン設計の段階でゴージダーツによる処理を選択することは、極めて合理的な考え方である。

3.いろいろな展開方法

パターン設計の段階ではなく、体型補正を含めて、既存のパターンにゴージダーツを追加するための展開方法をいくつか紹介する。

●胸のボリュームを出したい(ハト胸にしたい)

【図9】バストダーツに関係なく、任意の位置と長さで新たにゴージダーツを発生させる。展開方法は図のどちらでもよい。また、ダーツの向きも自由に設定してよい。返り線は直線で引き直す。

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[デメリット]

◇単純に前丈が長くなる。
◇右図は天幅が狭くなる。
◇左図は返り線の浮きが増える。

●バストダーツをラペルの下に移動したい

【図10】バストダーツをたたむ際、目的のゴージダーツとの中間点を基点に回転する。肩線とゴージラインの段差は両端点を結んで引き直す。

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[デメリット]

◇移動距離に比例して前丈が短くなる。
◇移動距離に比例して返り線の浮きが増える。
◇ダーツ止まりをバストポイントに戻すアイロン処理が必要。

●とにかくゴージダーツを入れたい

【図11】ゴージダーツを入れたい位置に線を引き、ラペル前端をたたんでダーツを発生させる。ゴージラインは直線で引き直す。実に安直な方法。

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[デメリット]

◇当たり前だが天幅が狭くなる。
◇当たり前だがVゾーンが狭くなる。
◇当たり前だが襟のパターンは引き直しが必要。

●メンズ・テーラード風にしたい

【写真4】わざと返り線に交差するように入ったメンズ・ジャケットのゴージダーツ。メンズ・テーラードでよく採られる?手法。前襟ぐりがカーブしている場合に有効。

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【図12】バストポイントからラペルの返り線を突っ切ってゴージラインに向かうダーツを入れる。ダーツは任意の長さに修正する。返り線とゴージラインは直線で引き直す。

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[デメリット]

◇厚手の生地には不向き。

――紳士服の世界は知らないことが多い。ある紳士服の技術者によると、ゴージダーツを入れる目的は、見えないところにひと手間をかけることで価値感を高めるためだそうだ。それが真意かどうかは不明だが、意外とレディスでもそう思っている人は多いかも知れない。ゴージダーツはデメリットも多い。重要なのは、何がしたいのか、そのためにゴージダーツがなぜ必要かを考え、確信犯としてゴージダーツを入れることだと筆者は思う。

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