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No.047 パターンの基礎(その5)スカートのダーツとウエストラインの謎

実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲

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アパレル工業新聞 2024年11月1日発行 2面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

突然ですが、ウエストにダーツがあるスカートのウエストラインって、どんなカーブにすればよいか分かりますか?こいつ何を言っているんだと思うかもしれませんが、冗談ではなく時々日本中のパタンナーに聞いてみたくなるのです。実は、私は未だにどんなカーブがよいのか分かっていません。
そこで今回は、ダーツに関するあれこれ第2弾として、スカートのダーツとウエストラインの謎についてお話しします。このテーマは、前回お話しした『ダーツはただ縫うだけでは布は完全な曲面にはならず、布の伸縮があって初めて曲面になる』ということに関係があります。つまり、布の伸縮にはアイロン操作が不可欠であり、いわゆる“くせ取り”を含めたダーツ縫いとアイロン操作の関係が今回の重要なテーマになります。
たかがダーツと笑うなかれ。実は掘り下げていくと底なし沼から抜け出せなくなるのです。スカートのウエストラインは、ダーツを閉じたときに繋がりの良いカーブになるように引くのが当たり前だと思っている人は、この投稿を読んだらきっと夜も眠れなくなると思いますよ。

1.スカートのウエストラインはどちらが正解?

【1-1】はダーツを閉じた状態でウエストラインがスムーズな形状になる、ごく普通のパターンである。紙の上でパターンを手で引いていた時代では、ダーツを一本一本丁寧に折り畳み、カーブ尺を駆使してウエストラインを引き直し、ダーツの折り山をルレットで写し取り、再び開いてトレースしてパターンにしていたものである。今ではCADがあっという間にこの作業をやってくれる。

実践!レディース・パターン教室47[1-1]

【1-2】はダーツにより分断されたウエストラインの隙間を閉じるように平行に折り畳み、あたかもダーツが無かったかのような状態でウエストラインを引いたパターンである。ダーツを縫った状態ではウエストラインはV字になり、当然だがスムーズな形状にはならない。

実践!レディース・パターン教室47[1-2]

さて、質問である。この2つのパターンだが、どちらが正解だろうか?この場合、どちらが正解か一概に決め付けることはできない。何故ならば、パターン形状の適否を判断する際には、素材の特性やアイロン操作による地の目の変化を抜きにしては決して語ることができないからである。

2.地の目の考え方とアイロンのかけ方

では、質問を変えよう。仮に素材を中肉のウールとして、次の二つの方法でダーツに片倒しアイロンをかけるとする。一つはウエスト側からダーツ止まりに向かって下方向にかける。もう一つはダーツ止まりからウエスト側に向かって上方向にかける。さて、どちらが正解か?

【2-1】はアイロンをかける方向によるダーツ付近の地の目の変化を表したものである。どちらが結果的により美しいシルエットのスカートになるかは言うまでもない。つまり、よこ糸を水平に通すことが美しいシルエットを作る条件なのである。そのためのアイロン操作を前提とするならば、【1-2】のパターンが正解ということになる。反対に、アイロン処理など望めない低価格帯のスカートを作るのが前提であれば、【1-2】のパターンでは不適切ということになる。

実践!レディース・パターン教室47[2-1]

3.ダーツが斜めの場合

【3-1】のスカートを見ていただきたい。この斜めのダーツは明らかにデザインとして設定されているのだが、もしもこのようなダーツで前述の美しいシルエットのためのアイロン処理を前提としたパターンを作るとしたら、ウエストラインはどんな形状になるのだろうか?まず悩むのはアイロンのかけ方である。セオリーどおりにかけるとしたら、ダーツ止まりからダーツに沿って斜めにかけることになるのだろうか?あるいはダーツの傾斜に関係なく、あくまでよこ糸に対して直角にかけるのだろうか?そもそもこのデザインではよこ糸を水平に通すことなど無理ではなかろうか。

実践!レディース・パターン教室47[3-1]

ここはひとつ割り切って、ダーツの傾斜は単なるデザイン、ダーツに惑わされることなくアイロンをかける方向だけをしっかりと守ることにしてみる。そう考えれば【1-2】のパターンと考え方は同じで、ウエストラインはV字の形状のままでダーツ止まりを基点にダーツを閉じると【3-2】のようなパターンになる。すごい違和感である。こんなパターンでいいのかね?試しにシーチングを使ってアイロン処理をしてみた。

実践!レディース・パターン教室47[3-2]

【3-3】は、実際にダーツ止まりからウエストラインに向かってよこ糸に対して直角にアイロンをかけたものである。厳密に言えば直角ではなく、ダーツ止まりからウエストラインのV字の谷に向かって僅かに斜めにかけることになる。結果は、ウエストラインのⅤ字の角度はやや浅くなったが、スムーズなウエストラインとは言えない。やはり違和感が払拭されることはないようだ。

実践!レディース・パターン教室47[3-2]

更に無理を承知で【3-4】のようなパターンを想像してみた。これはダーツが斜めでありながら、よこ糸を水平に通すことに命を懸けたパターンである。縫う人を置き去りにして、パタンナーの執念だけが伝わってきそうだ。もし、このようなパターンを作るパタンナーがいたら、どうやって縫うかはお任せするので、是非ご自分で縫っていただきたいものである。

実践!レディース・パターン教室47[3-4]

4.ダーツがよこ向きの場合

そういえばよこ糸のことばかり考えていて、たて糸のことを忘れていた。【4-1】のパターンはダーツが真よこを向いたデザインである。よこ糸に命を懸けているパタンナーがこのパターンを見たら、その場で倒れることだろう。このようなダーツの場合は、アイロンをダーツ止まりから脇線に向かって横方向にかけることになるのだろうが、仮にダーツの縫い目でたて糸が真っすぐに繋がったとしても、スカートのシルエットに対してたて糸全体としては垂直には通らないことになる。そう考えると、このスカートではどう頑張っても美しいシルエットは得られない、という理屈になる。果たして地の目とは何なのだろう。アイロン処理により地の目を変化させることの必要性とは何なのだろうか?

実践!レディース・パターン教室47[4-1]

5.まとめ

以上、いろいろと考察をしてみたが、逆に悩みを増幅させる結果に終わった感がある。結局のところ、アイロン処理とは何を目的とするのか、その目的によってアイロンの操作方法は(かける方向も含めて)どのようにすればよいのか、その結果として求められるパターン形状はどのような形状でなければならないのか、悩みは尽きない。これが筆者が日本中のパタンナーに聞いてみたくなる理由である。
※参考までに申し上げると、筆者がスカートのパターンを引くときは【1-1】のウエストラインにしている。アイロンのかけ方は、ダーツ止まり付近をいせ込むようにかけ、ウエスト付近は素直に片倒すのみである。

最後に、【3-4】のパターンを実際に縫ってみたのが【5-1】である。結果はご覧のとおり。結構苦労したことを報告しておく。

実践!レディース・パターン教室47[5-1]

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