No.040 間違いだらけの4面体パターン
実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲
- 学習・知識
アパレル工業新聞 2023年7月1日発行 5面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。
4面体の構造については、第11回「テーラード・ジャケットのパターンメーキング…その9」で触れていますが、改めて4面体の難しさと、それを知らずにどれだけ多くの間違ったパターンが巷に溢れているかについてお話しします。
4面体と言えば、プリンセスラインやパネルラインが代表的ですが、レディスのジャケットにおいては3面体より4面体の方がスタンダードでしょう。それ故、多くのパタンナーが3面体(特にマニピュレ構造のジャケット)のパターンメーキングに苦手意識を持ち、4面体よりも上級に位置づけされているのが現実です。しかし、私個人としては3面体より4面体の方が構造的に難しく、むしろこちらの方が上級だと思っています。いや、上級と言うよりこちらの方が衣服設計においては基本中の基本。パターンの設計者は当然分かっていなければいけないことなのですが…。
1.よく見る4面体のパターン
【図1】右がパネルライン、左がプリンセスラインのジャケットのパターンである。手法としては3面体の作図をする時と同じように、どちらもストレートのジャケット原型にそれぞれの構造線を入れたものである。このようなパターンをよく見かけるが、設計者の意図によってはこれらのパターンは大きな間違いを犯していることになる。
2.3面体と4面体の面の境目
3Dシミュレーションを使って、前述の4面体を面の境目が分かるように着せ付けてみる。同時に3面体も面の境目が分かるように着せ付け、4面体との断面形状の違いを比較する。
【画像1】3面体の面の境目を強調した3D画像。ウエストを絞る場合は面の境目にダーツをとる。側面が平面になるので、ウエストを絞ってもアームホールは正常な形状を保つ。
【画像2】4面体の面の境目を強調した3D画像。側面が平面にはならず、体から離れる。すでにアームホールの形状が歪んでいるのが分かる。この状態で面の境目にダーツをとってウエストを絞るとどうなるか、想像がつくだろう。
3.くせ取りをすればいい?
【写真1】ストレート原型に4面体のダーツを入れてウエストを絞ったトワルの写真。後ろアームホールが張り付いて背中心に向かって斜めシワが走っている。その影響でアームホールが正常な形状を成していないのが分かる。つまり、後ろのアームホール丈が不足しているのである。
――3面体と4面体では面の境目の位置が違うため、ウエストを絞るとこのような結果になってしまうのである。ならばくせ取りをして、面の境目(ダーツの位置)を3面体と同じ位置まで移動すればいいのではないか?
【写真2】くせ取りでダーツの位置を3面体と同じ位置まで移動したトワルの写真。背中の斜めシワはなくなり、アームホールの形状もほぼ正常な形状に戻っている。
――このくせ取り操作はかなり難度が高く、常に均一な結果を得ることは到底望めない。更に、よほど可塑性のある素材でない限り、くせ取りによって変形した布は必ず元に戻ろうとする。こうした条件を知ったうえで設計者の意図がくせ取りを前提としているのであれば、【図1】のパターンは必ずしも間違っていないことになろう。しかしそうでない場合は、このようなパターンを引くことは大間違いなのである。
4.4面体の構造を人体の紙貼りで検証
ここで人体の紙貼りによる4面体の構造を紹介する。これにより、【図1】のパターンの何が間違いなのかがよく分かるはずである。(ここで紹介する写真はヤノモデリストオフィス代表の矢野弘子氏の提供によるものである。)
【写真3】人体(トルソー)に紙を貼り、それを抜き取ってバストラインが水平になるように平面に展開した写真。人体のダーツのあるべき位置と分量がよく分かる。
【写真4】パネルラインの構造線を入れ、4面体になるように展開した写真。ストレート原型に当てはめた場合を想定して、裾線を基準に並べている。パネルラインで分割された後ろのアームホールが段違いになっているのが分かる。
――この紙貼りを見ても分かるように、4面体の構造は単純にストレート原型に構造線を入れれば成り立つものではない。4面体の構造については矢野弘子氏が詳しく解説しているので、そちらを参照していただきたい。(WEBサイト:iwaps.o.oo7.jp)
5.ストレート原型から4面体を作図する方法
1.パネルラインの作図
【図2】▼ストレート原型にパネルラインの構造線を入れる。
▼後ろ脇身ごろのアームホールを、上端が5ミリ高くなるまでカマ底を基点に回転する。(アームホールを回転することで後ろアームホール丈が長くなる。)
▼後ろ脇身ごろのパネルラインを引き直す。(この操作で後ろ身ごろのパネルラインのイセ分量が少なくなる。)
▼背中心のウエストの削り量を減らす。
▼後ろ脇身ごろのバストラインを後ろ身ごろとつながるように角度を変えて引き直す。
2.プリンセスラインの作図
【図3】▼ストレート原型にプリンセスラインの構造線を入れる。
▼後ろアームホールを中間点で分割する。
▼中間点を基点にアームホールの下側を回転してカマ底を下げる。このとき、肩先からカマ底までの距離が5ミリ長くなるまで回転する。(つまり、後ろアームホール丈を長くする。)
【図4】▼肩ダーツ止まりの位置で後ろのプリンセスラインを分割する。
▼ダーツ止まりを基点に、カマ底がバストラインの高さまで戻るように後ろ肩全体を回転する。