No.039 パンツのくせ取りと地の目の効果
実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲
- 学習・知識
アパレル工業新聞 2023年5月1日発行 5面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。
第23回から第30回までの8回にわたり、パンツの構造理論とパターンメーキングについて書きましたが、そう言えばアイロン処理について何も書かなかったなあと思い、今回はパンツのくせ取りと地の目の効果をテーマにしました。
実はパンツのくせ取りについては兼ねてから疑問に思っていることがあり、諸先輩たちから教わってきたことになかなか納得できずにいました。それで自分で幾度も試行錯誤をしていくうちに、自分なりの結論に至っています。今まで教わってきたことで良しとしてきたくせ取りと、自分の経験を経て辿り着いたくせ取りの違いを、実際にやってみた結果の画像で比較してください。ただし、私の方法は長年にわたり先人たちが築き上げてきたくせ取りのセオリーを否定することになりますので、どちらが合理的か、判定は読者の皆様にお任せします。
また、地の目の効果についてもある疑問が発端となって考えるようになりました。その疑問とは、従来からある囲み製図による後ろパンツのウエストラインにあるのですが、往々にして両身になったときの左右のつながりが悪いままの製図を見かけます。一見不適切な形状と思いがちですが、どうも地の目による何らかの効果が考えられているらしいのです。それはどんな効果なのか?検証によって何かが見えてきましたので、それをお伝えします。
1.くせ取りの検証
【1-1】2通りのくせ取りの方法の図解。
「くせ取りその1」は地の目の交差角を変えてヨコ地の目を水平にすることを基本とした方法。股下の縫い目をまっすぐに置き、股ぐりの浮きをヒップに向かってアイロンで追い出す。膝の浮きはアイロンを斜めにかけて上下に逃がす。
「くせ取りその2」は地の目の交差角を変えないことを基本とした方法。股下の縫い目ではなく前の折り山をまっすぐに置き、膝裏の浮きをアイロンでいせ込む。股ぐりの浮きは追い出さずにそのまま残しておく。膝裏の浮きをいせきれない場合は、裾に向かって浮きを逃がす。
【1-2】2通りのくせ取りを行った結果を比較した実物画像。
――恐らく「くせ取りその1」がパンツのアイロン処理の基本だと心得ている人が多いのではないだろうか。厳密にはこんなに単純ではなく、もっと緻密な操作が必要だろうが、職人技を持ち合わせていない筆者は粗方これで良しとしてきた。ところが実践してみると、ヒップ下にシワが溜まってどうも見栄えが悪い。「くせ取りその2」はアイロン操作といえば膝裏のいせ込みくらいで、これをくせ取りと言ってよいのか分からないが、結果は画像で確認していただきたい。筆者はこちらの方法を推奨している。
2.地の目の検証
【2-1】囲み製図でよく見られる後ろパンツの形状。ウエストラインが後ろ中心線と直角に交差していない。これだと両身になったときにウエストのつながりがV字になる。
――V字のままでよいとは思えないので、直角に引き直してしまうことが多いが、実はこの形状は地の目に関係するある効果を狙ったものである。それを検証してみよう。
【2-2】後ろ中心の倒しが違う2通りのパターン。Aのパターンを基準として、Bのパターンはヒップラインで展開して後ろ中心の倒しを多くしている。どちらもウエストと後ろ中心線の角は直角である。
【2-3】Aのパターンの実物画像。
【2-4】Bのパターンの実物画像。
――後ろ中心の倒しの違いでヒップの見え方が大きく異なる。Aはヒップが平らに見える。Bはヒップが丸く見えるが股ぐりが余ってヒップが下がって見える。ヒップが丸く見えて尚且つ股ぐりが余らない方法はあるのか?
【2-5】ヒップが丸く見えて尚且つ股ぐりが余っていない実物画像。これをA2とする。
【2-6】A2の裁断方法を示した図。パターンはAと同じだが、ワタリ線を境に上部の地の目を斜めに変形させて裁断している。これにより、後ろ中心の地の目がBのパターンと同じになり、尚且つ股ぐりの余りがない。
【2-7】A2の視覚効果だけではなく、地の目によるヒップアップ効果を示した図。※但し、実際にヒップアップ効果があるかどうかは未確認。
【2-8】ドレーピングで操作するときの画像。ヒップから上を斜めに引き上げるように組むとA2と同じ結果になる。
3.パターンの操作と3Dによる検証
【3-1】A2と同じ結果になるように、パターンを操作する方法を示した図。ウエストラインと後ろ中心線の角は直角にはならない。前述の囲み製図でよく見られる形状と同じような形状になることが分かる。
【3-2】これは遊びだが、A2とは逆に後ろ中心の地の目がまっすぐになるように操作する方法を示した図。ウエストと後ろ中心の角は鋭角になる。これをA3とする。
【3-3】Aのパターンを3Dでシミュレートした画像。
【3-4】Bのパターンを3Dでシミュレートした画像。
【3-5】【3-1】のパターンを3Dでシミュレートした画像。
【3-6】【3-2】のパターンを3Dでシミュレートした画像。
――3Dの画像にはそれぞれ生地ストレスを示した画像も付けた。実際の履き心地までは測りかねるが、地の目の効果についてはまだまだ検証に余地がありそうだ。