No.038 ブラウスのパターンの要点
実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲
- 学習・知識
アパレル工業新聞 2023年3月1日発行 7面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。
タイトルは"要点"となっていますが、今回伝えたいのはブラウスのパターンの"難しさ"です。
ブラウスというアイテムは、パターンのレベル的には初級として扱われていているのが世間一般の認識です。例えば、服飾専門学校で習うのは1年生がブラウスやスカートで、上級生がジャケットやコートというのが一般的です。また、企業でも新人パタンナーはブラウスやスカートから実践経験を積んでいくのが多いと思います。更に巷で実施されているパターンの検定試験も、ブラウスが初級でジャケットが上級といった具合です。
しかし、私個人の認識としては、ブラウスはむしろジャケットより難しく、多くの学生やパタンナーがその難しさを知らずにパターンを引いているのではないかと思っています。いったい何が難しいのか?今回はそのことについて説明します。
1.このパターンは正解か?
何の変哲もないウエストシェイプのブラウスのパターンである。(作図にはストレートの身ごろ原型を使用している。)
ダーツの扱いやデザイン要素は別として、ブラウスのパターンとしては何も問題がないように見えるが、実はこのパターンには明らかに構造上の問題がある。その問題点とは、「後ろに抜け易い」ことである。しかし、どの教科書や参考書を見ても、ブラウスのパターンは大体このようなパターンである。あまつさえ検定試験初級の模範解答にもなっていたりする。
2.正しいパターン
こちらが正しいパターンである。(Aのパターンと同じ原型を使用し、各部の寸法も同じ。)
パッと見では分かり難いが、よく見ると後ろアームホールの形状が多少違っていて、バストラインが水平ではなく後ろがやや高くなっている。
3.ABパターンの比較
AとBのパターンを重ねて比較した図である。
ダーツ量や脇線の傾斜も微妙に違うが、それは重要ではない。重要な違いは、アームホールの寸法は同じであるのに、Bのパターンの後ろアームホール丈が長くなっていることと、バストラインが水平ではないことである。では、何故Aのパターンに問題があり、Bのパターンが正しいのかを、順を追って説明する。
4.ボディ原型からブラウスのパターンにすると?
ボディ原型とスカート原型を使用してブラウスのパターンにするとどうなるか検証する。(プリンセス原型に展開するまでの手順は説明を省く。)
後ろのアームホールの形状は後ろ脇のダーツをたたむので当然変化し、アームホール丈が長くなる。ブラウスは2面体なので、プリンセス原型を合体するとき裾を重ねずに突き合わせにする。2面体になった身ごろを脇の下を接点に並べると、バストラインは後ろが高くなる。
5―1.3Dシミュレーションで確認(Aのパターン)
Aのパターンの3D画像。
横から見たアームホールの形状に注目する。後ろアームホールが腕の付け根に当たり、後ろに押されたようになっている。その影響でアームホール全体に歪みが発生している。背面を見るとカマ底が腕に押し返されたような斜めじわが見て取れる。これが「後ろに抜け易い」原因である。
5―2.3Dシミュレーションで確認(Bのパターン)
Bのパターンの3D画像。
アームホールは正常な形状を保っている。身ごろに余分なシワもなく、全体的に良好なシルエットで「後ろに抜け易い」要素はないと言える。
5―3.実際のトワルで確認
実際にトワルを組んで確認した画像。
Aのパターンはアームホール全体が前方に押され、前のカマが浮き、後ろのカマが腕の付け根に被っている。これは後ろアームホール丈が不足しているためである。袖を付けてしまうとなかなか気付かない部分である。
Bのパターンはアームホールのゆとりが前後とも均等になっている。
6.Aのパターンを簡易的に修正する方法
Aのパターンを簡易的に正解に近いパターンに修正する方法を説明する。
▼前後のカマ幅線を裾まで延長し、アームホールとの接点を起点に前は裾を開き、後ろは裾をたたむ。※展開量は任意に調整する。それにより後ろアームホール丈が長くなり、バストラインは後ろが高くなる。
▼脇線は傾斜が垂直になるように引き直す。肩ダーツ量などの微妙な変化には対応していないが、概ね正解のパターンに近い形状になる。
■要点をまとめると、ウエストの絞りがないシルエットなら当然この操作は必要ない。多少なりともウエストを絞った場合は、後ろアームホール丈が長くなり、バストラインは水平ではなくなる。
――腕のないボディでトワルを組んだ場合、ここで示した欠点に気付かない場合が多い。ましてや3Dで表現されているようなシワやシルエットの崩れは、実際のシーチングでは表れにくい。特にゆとりが大きいシルエットの場合はなおさらだ。しかも薄い生地を肌に直接まとうブラウスは、着れば必ずどこかにシワが出るし、着る人の体形によってシワの出方も変わる。ジャケットの場合はとりあえずシワのないシルエットを目指して作るという目標があるが、ブラウスはどこを目標に据えればよいのか、いつも悩んでしまうのだ。筆者がブラウスは難しいと思っている理由はそこにある。
所詮はブラウス、神経質なほど精密なパターン設計が必要なのかと思う人もいるかも知れぬ。しかし、ブラウスに限らず、そこには服としてのパターンの基本が根底にある。ブラウスという軽いアイテムゆえに、パターンの基本まで軽んじてしまっては、技術の向上や人材の育成は望めないのではないだろうか。