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No.033 袖のパターンメーキング(その1)

実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲

  • 学習・知識

アパレル工業新聞 2022年5月1日発行 5面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

今回から実践的な袖のパターンメーキングに入ります。今回紹介する方法は、前回述べた「袖山の形状を決めるロジックは存在しない」という持論に基づき、基本的には学校の教科書にも載っているような一般的な作図法がベースになっています。そこに少しばかりの自己流操作を加えて、実務で使えるレベルの作図法にしています。まずは基本的な袖の構造を理解するため、袖の2つの要素である「振り」と「傾斜」について考察しましょう。

1.上腕の振れ角と肘の屈曲

袖のパターンは常識的に前に振って設計するが、実際の人の腕はどのようになっているのか?数百人のモデルの側面写真を分析した結果、腕の形状は大体次の4通りに分類することができる。

【1-1】ニュートラルな姿勢での上腕の振れ角と肘の曲がりを比較した写真。

①上腕が大きく前に振れ、肘の曲がりが少ない。

②上腕が直下し、肘の曲がりが少ない。

③上腕が後ろに振れ、肘の曲がりは中くらい。

④上腕が大きく後ろに振れ、肘の曲がりが大きい。

実践!レディース・パターン教室33[1-1]

肩先と手首を直線で結んだときの振れ角は、①が最も大きく、④は殆ど直下している。このように、腕の形状には個人差が大きく、袖の設計にはニュートラルな腕の状態を基準にはできないことが分かる。

【1-2】前に振った袖を標準的な体形のアバターに着装した3D画像。袖の振れ角はアバターの手首の位置に合わせて設定している。アバターの上腕の振れ角は直下に近い状態なので、着装すると袖の肩から肘にかけて後ろに引かれて崩れたシルエットになる。これが常識的な袖のパターンであることを、まず理解しておく必要がある。

実践!レディース・パターン教室33[1-2]

【1-3】袖を前に振る理由の図。一番の理由は、腕の前挙(前に振り上げる動作)に対応するためだが、ニュートラル時には袖が後ろに引かれることで肩が前に回ろうとするので、身ごろが後ろに抜けにくくなる効果もある。結局、袖をどれくらい前に振るかは、腕の動作への対応とニュートラル時のシルエットとの折り合いで決めるしかない。

実践!レディース・パターン教室33[1-3]

2.袖山のロジック・・・?

袖は言わずもがなアームホールに付くものなので、まずはアームホールの形状を把握しておく。その前に、筆者が「袖山の形状を決めるロジックは存在しない」と繰り返し持論を述べる理由を、簡単なシミュレーションで実証しよう。

【2-1】実際のアームホールに長方形の筒を付けた3D画像。筒がきれいに付かず歪んでいる。これにより、アームホールは平らな面の上に空いているのではないことが分かる。この長方形の筒を歪めずに付けるには、袖付け線が直線ではなく微妙な曲線になるのだが、その曲線を製図の段階で正確に引く術(すべ)がない。これが袖山の形状にも当てはまる理由である。

実践!レディース・パターン教室33[2-1]

3A.袖山の作図(ジャケット用)

ここから実践的な袖山の作図法を説明する。数ある作図法の中で、ここで紹介するのはよくある三角形による作図法である。この作図法で重要なのが、肩を縫い合わせたアームホールの形状におけるSP(ショルダーポイント)とカマ底点(脇線の位置)の位置関係である。また、袖山の高さの決め方と袖を前に振る方法が他とは少し違うので、参考にしていただきたい。

【3A-1】身ごろを着装した側面にパターンを重ねた3D画像。SPとカマ底点の位置関係を把握しておく。※パターンの置き方は、必ずしもバストラインが水平ではない点に注意。

【3A-2】脇で突き合せた身ごろのパターンに、アームホールを描き写した図。SPの位置を明確にするため、カマ底点から垂直線を引いておく。この時のアームホールの高さは、アームホールの周長の36%になる。このアームホールを「アームホールゲージ」にして、使用する身ごろ原型とセットにして持っておくとよい。

実践!レディース・パターン教室33[3A-1]実践!レディース・パターン教室33[3A-2]

【3A-3】▼アームホールの高さをそのまま袖山の高さに設定する。
▼SPを頂点に三角形を描く。右の斜辺は前アームホール寸法と同寸、左の斜辺は後ろアームホール寸法に5ミリ足した寸法にする。
▼カマ底点から垂直線を引き、袖中心線とする。

【3A-4】袖を前に振るには、SPを基点に三角形を任意に振る。※カマ底点は動かないため、前に振るほど前袖幅が広くなり、後ろ袖幅が狭くなる。

【3A-5】▼袖中心線を頂点で1㌢振って三角形を描く。
▼前後の袖幅の中点にそれぞれ直角線を引く。
▼直角線を軸に前後アームホールのカマ底部分をそれぞれ反転する。

【3A-6】▼アームホール上部と反転したカマ底をガイドに、袖山線を引く。
▼グレー部分の面積バランスを袖山のカーブを引く際の目安にする。

実践!レディース・パターン教室33[3A-3~6]

【3A-7】ジャケット用の袖の完成図(袖山の高さ=36%)。EL(エルボーライン)の位置はSPからWL(ウエストライン)までの距離と同じにする。袖山に垂直線を残しておくと振れ角の目印になる。

実践!レディース・パターン教室33[3A-7]

――袖山線のガイドとなるのは、三角形の斜辺、アームホール上部、反転したカマ底のみで、あとは殆どフリーハンドである。巷の作図法ではもっと細かく案内線を設定するものもあるが、案内線が細かくなるほど出来上がるパターンは画一的になる。どんなアームホールにも対応するには、どうしても経験と感覚に頼らざるを得ない部分がある。そこをグレー部分の面積バランスという形で表している。

3B.袖山の作図(ブラウス用)

【3B-1】▼袖山の高さをアームホールの周長の30%に設定する。
▼アームホールを袖山の高さまで垂直に下げて描き写す。
▼袖中心線を頂点で1センチ振る。
▼SPを頂点に三角形を描く。右の斜辺は前アームホール寸法と同寸、左の斜辺は後ろアームホール寸法と同寸にする。
▼前後の袖幅の中点にそれぞれ直角線を引く。
▼直角線を軸に前後アームホールのカマ底をそれぞれ反転する。

【3B-2】▼アームホール上部と反転したカマ底をガイドに、袖山線を引く。
▼グレー部分の面積バランスを袖山のカーブを引く際の目安にする。

実践!レディース・パターン教室33[3B-1~2]

【3B-3】ブラウス用の袖の完成図(袖山の高さ=30%)。

実践!レディース・パターン教室33[3B-3]

――ジャケット用の袖と同じだが、袖山が低くなるにつれ袖山線はガイドから離れていくので、フリーハンドの要素がより強くなる。

3C.袖山の作図(シャツ用)

袖山が低くなると、側面から見たアームホールはガイドの役を成さなくなる。この場合は、側面からの視点ではなく上から見下ろす視点で作図をする。

【3C-1】▼前後身ごろを肩で突き合わせる。
▼SPを基点に袖の振りを決め、袖中心線を引く。
▼袖山の高さをアームホール周長の25%に設定する。
▼SPを頂点に三角形を描く。右の斜辺は前アームホール寸法と同寸、左の斜辺は後ろアームホール寸法と同寸にする。(斜辺の寸法はイセにより加減する)

実践!レディース・パターン教室33[3C-1]

【3C-2】▼身ごろのアームホールをガイドに袖山線を引く。
▼袖山上部のカーブはグレー部分の面積バランスを目安にする。

実践!レディース・パターン教室33[3C-2]

――袖山下部のカーブは完全にフリーハンドである。袖を前に振るには袖山上部のカーブが肝要となるので、グレー部分の前後バランスを特に重視すること。

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