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No.031 パンツのシワの原因とパターン修正

実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲

  • 学習・知識

アパレル工業新聞 2022年1月1日発行 7面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

前回は、体型によるパンツのシルエットの違いを、3D着装ソフトを使ってシミュレートしました。履く人の体型によってシルエットの変化が顕著に現れてしまうのが、パンツというアイテムの難しさですが、そのことが前回のシミュレーションでもはっきり確認できたと思います。(3Dのおかげで寸法が同じで体型だけが異なる3人のモデルを探さなくてもいいのですから、まったく便利な世の中になったものです。)しかし、体型以外にもパンツにはパターン形状によって様々な問題が発生することがあります。例えば、意図せぬシワの発生がその一つです。そのシワをなくすためのパターン修正の方法が分からず、パンツに苦手意識を抱いているパタンナーが多いのも事実ではないでしょうか。 そこで、今回も3D着装ソフトを使って、パンツを履いたときにできる様々なシワをバーチャルで再現して、シワができる原因とパターンとの因果関係について検証します。3D着装ソフトは前回と同様「CLO」(ユカ&アルファ)を使用します。  「CLO」をはじめとする3D着想ソフトは、アバターの体型やサイズ、素材の物性などを細かく設定でき、かなり実物に近いシルエットを再現できるので、実物を縫製する前にパターンの良し悪しを検証するツールとして非常に有効です。また、「クレアコンポⅡ」(東レACS)の3D機能は、デジタルトワルチェックという目的に特化することで、パターン設計の効率化と精度の向上に役立っています。 これらの3D着装ソフトが、パターン設計における必須ツールとして普及していくことは、もはや必然であると私は思っていますので、今後もこの教室のなかで積極的に取り入れていくつもりでおります。

1.基本形

【図1】パンツの構造理論により、この基本形には一定の運動量が内在しているので、ヒップ下に僅かなたるみが出ている。このパターンと、この状態での股ぐりの断面形状を基準として検証を開始する。尚、生地は中肉ウール、アバターの体型は標準体型とする。

2.ヒップ下の斜めシワ

【図2-1】ヒップ下から内股に向かって斜めのシワが発生する現象。これが恐らくパンツのシワの中で一番多い事例ではないだろうか。

■パターン形状

基本形と比べて内股のカーブが強く(特に後ろの股下線)、脇線のカーブは緩い。その結果、中心線が脇に寄ってO脚のようなパターンになっている。このようなパターンはカジュアルなパンツに多く、特にビンテージ・ジーンズなど、脇にセルビッチ(耳)を使うものは脇線を直線にする必要があるため、このようなパターンになる。※点線は基本形。

■対策

パンツ中心線を渡り幅の中央付近まで戻し、股下線のカーブを緩める。反対に脇線のカーブが強くなるので、素材によっては脇が膨らんで見えることがある。素材に合わせた加減が求められる。

【図2-2】参考までに、同じパターンで生地の物性を変えてシミュレートした図。生地のバイアス方向の強度を弱めて、せん断が変形しやすい物性にした。その結果、生地が体に沿って変形し、内股のシワがきれいになくなっている。素材によってこれだけシルエットが変化することが分かる。

3.おむつ尻

【図3】シワではないが、ヒップの割れ目がなく、おむつを履いたようにお尻が下がって見える現象。前回の体型別シミュレーションにおける屈伸体型のケースに似ているが、パターンが原因でこうなることもある。また、極端に細いジーンズを履いたときなど、脚がつっかえて股が上まで上がりきらずにこうなるケースを見ることもある。

■パターン形状

基本形と比べてヒップ寸法、渡り幅ともにゆとりが少なく、後ろ中心線の寝かしが多く尻ぐり(後ろの股ぐり)の長さが長い。これもカジュアルなパンツ、特にジーンズなどに多い。

■股ぐり断面形状

尻ぐりが下がって体との間に空隙ができている。身体の股ぐりの長さより明らかに尻ぐりが長いとこうなる。また、ウエストの後ろが本来の位置より下がってもこうなることがある。但し、いずれのケースもヒップのゆとりがなく体に密着している場合である。※点線は基本形の股ぐり断面。

■対策

まずは着用者が体に合ったサイズのパンツを選ぶことが肝要である。パターンの対策としては、全体にゆとりを増やした上で後ろ中心線を起こし、尻ぐりの長さを短くする。尻ぐりのカーブがきつい場合は、十分にカーブ部分を伸ばしてやるか、カーブ自体を緩くする。

4.股の食い込み

【図4】股が食い込むと同時に、内股から股ぐりに向かって引き上げるような斜めシワが発生する現象。股上が浅いパンツを無理に引き上げて履いたときにも股は食い込むが、その場合は脇が吊り上がった状態となり、裾が外側に向かって広がる。このケースではその逆で、股下線が吊り上がって裾が内側に向かって閉じる。

■パターン形状

基本形と比べて股ぐりの長さは等しいが、渡り幅が狭く尻ぐりのカーブが浅い。履くと股ぐり全体が押し広げられて食い込み、股下が吊り上がる。

■股ぐり断面形状

尻ぐりが基本形より食い込み、股下が引き上げられて吊れたようなシワが出ている。アバターはお尻の割れ目が実際の人間ほど深くないため、実際にはもっと食い込むと思ってよい。

■対策

着用者のヒップの厚みに対してパターンの渡り幅が足りない場合にこうなる。やはりこれも体型に起因するケースが多い。パターンの対策としては、股ぐりの長さをキープしつつ渡り幅を広げて尻ぐりのカーブを緩くする。

5.股下のたるみ

【図5】4.のケースとは逆に股下にたるみシワが発生し、脇が吊り上がって裾が外側に向かって広がる現象。ヒップのゆとりが少ないと臀構(お尻の下の溝)に沿うように脇上がりのシワが走る。

■パターン形状

基本形と比べて渡り幅が広く股上が浅い。相対的に脇丈が短くなり、履くと股底が押し下げられる分、脇が吊り上がることになる。

■股ぐり断面形状

股ぐりは体に沿っているが、股下の余り分が前から後ろにかけてお椀状のシワになっている。尻ぐり線のカーブによっては食い込むこともある。

■対策

これも着用者が股上の浅いパンツを無理に引き上げて履かないことが肝要である。パターンの対策としては、股底を下げて股上を深くする。股ぐりの長さが長くなり過ぎないように渡り幅を削って調整する。

6.小股の浮き

【図6】小股(前の股ぐり)が浮いて棚ジワのような余りが発生する現象。前回の体型別シミュレーションにおける反身体型のケースに似ているが、パターンが原因でこうなることもある。現代のトレンドでは、グランジなイメージを表現するために敢えてこのシワを作るケースもあるようだ。

■パターン形状

前中心線の寝かしが多く、前股上が深い。一見前後の区別がつかないような形状。まえうしろで履いても履けてしまいそうなパターンである。

■股ぐり断面形状

小股が浮いて身体の股ぐりとの間に空隙が出来ている。前股上が深い分、股ぐりが余ってしまうために起こる。反身体型でもこれと似たような現象になる。

■対策

脇を起点にヒップラインで前中心をたたみ、後ろ中心を開く。標準体型を反身体型へ補正する場合も同様の操作をする。

7.小股のひげ

【図7】小股からひげのようにシワが発生する現象。このシワの原因はパターンより体型に起因するケースが殆どである。その為、このシミュレーション画像は猫ひげが発生しやすい体型のアバターに着装している。

■パターン形状

体型の要因としては、太腿が前に張り出している場合が挙げられる。その場合は、基本形を基準としたパターン形状は当てはまらないので、体型補正をしたパターンが必要になる。敢えてパターン形状の要因を挙げるとすれば、小股のカーブがきついことぐらいである。

■股ぐり断面形状

これも小股が浮いて身体の股ぐりとの間に空隙が出来ている。前に張り出した太腿に引っ張られて起こる現象である。更に、小股のカーブがきついと縫い代が突っ張り、小股が吊れたようにシワが発生する。

■対策

パターンの対策としては、小股のカーブを緩くして渡り幅にゆとりを持たせることぐらいである。縫製の対策としては、小股をよく伸ばすこと。素材の対策としては、2ウェイストレッチ素材を使うとひげは出にくい。因みに、横ストレッチ素材はひげが出やすい傾向にあるので注意する。

――長らく続いたパンツのシリーズも、これでやっと終了です。今回のような3D着装ソフトを使ったパターンの検証は、今後も色々な場面で実践していきたいと思います。また、パンツに関する新しい技術を発見したときは、逐次この場で紹介したいと思いますので、どうぞお楽しみに。

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