実践!レディース・パターン教室23(パンツの構造理論とパターンメーキング その1)

パターンメイキングをアパレルCADで実践

  • 新聞掲載

アパレル工業新聞 2020年9月1日発行 4面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

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今回はパンツがテーマですが、タイトルを今までとは少し変えて「パンツの構造理論とパターンメーキング」としています。その理由は、私は兼ねてからパンツの作図法に対して様々な疑問を持っていて、恐らく多くのパタンナーが同じような疑問を持っているのではないかと思い、もっとパンツが分かり易くなる考え方やその考え方を基にした作図法はないものかと常々考えていたので、今回パンツをテーマに取り上げるにあたり、これを読んだパタンナー達に私の考えたパンツの構造理論を伝えて、パンツに対する疑問を少しでも解消してもらいたいと思ったからです。

ではパンツの何が疑問なのかと言うと、人によって疑問点は様々だと思いますが、私が最も疑問に感じていたのは、作図法が囲み製図しか存在しないことです。レディスのパタンナーの多くは、パターンメーキングの際にボディーから抜き取ったボディー原型(ブランド原型)と、そこから分岐した各アイテム原型を使用します。そして、それらの原型からダーツ展開やユルミ分の展開を経てシルエットを構築する手法を取っています。しかし、パンツだけはその手法によるパターンメーキングの事例が極端に少ないのです。そもそも股付きのボディー原型など誰も持っていないでしょうし、教育の場でもパンツのパターンメーキングにそのような原型を使った手法は教えていません。仕方なく囲み製図でパンツのパターンを引いてきたわけですが、言うまでもなく囲み製図は同じパターン形状をリピート(再現)するための手法ですから、何故その形状になるのかという根拠が示されていないため、そこからのアレンジやシルエットを修正する方法が分からず、壁に突き当たってしまうことが往々にしてありました。

そこでまず、原型から展開するパターンメーキングの手法をパンツにも当てはめることから始めてみようと考えました。すると、今まで見えなかったパンツの構造がはっきり見えるようになり、霧が晴れたようにそれまでの疑問が解消していきました。今回紹介するパンツの構造理論とそれを基にした作図法は、従来のパンツのパターンメーキングの概念を覆す画期的なものです。パンツは難しい...、そう感じている人は、この理論を知ればパンツは決して難しくないと思えるようになるはずです。

パンツは何故難しいのか?

多くのパタンナーが苦手意識を持っているパンツ。その難しさは、何と言っても複雑な人間の下半身を前と後ろのたった2枚のパーツだけで包み込まなければいけないことに尽きる。無論、2枚でなければならないという決まりはないが、長年の歴史によって現在のパンツの構造になっていることは曲げようのない事実である。しかも、近年では体型を美しく見せるための補正機能を持たせたパターン設計までもが求められている。このような高いハードルを越えなければならないのがパンツの難しさであり、パタンナーを日々悩ませている要因である。

その他にもパンツが難しいと感じる要因は多数あるが、そのうちの数例を以下に挙げる。

■素材や履く人の体型によってシルエットが大きく変わること。

■ボディーと実際の人間の体型が一致していない場合が多いこと。

■シワと運動量との兼ね合いが分かりづらいこと。

■くせ取りが難しく職人技が必要と思わせること。

■抜き型や有り型利用が多くゼロからパターンを引くことが殆どないこと。

これらの要因の中で、特に素材の選択はパンツのシルエットに関わる要因として最も重視すべきである。それを裏付ける例として、同一パターンを異なる素材で縫った場合のシルエットの違いを比較してみよう。

【1-1】素材によるシルエットの比較用に使用したパンツのパターン。某ハイブランドの抜き型だが、このパターンを見て実際のシルエットを想像していただきたい。パンツのパターンにある程度の覚えのある人なら、ヒップトップから後ろ内股にかけて斜めのシワが出るであろうことは容易に想像できるはずである。

【1-2】1-1のパターンを綿のストレッチサテンで縫ったもの。想像通り、ヒップトップから内股にかけて斜めのシワが出ている。

【1-3】素材を替えてレーヨン混のツイードで縫ったもの。同じパターンなのにヒップトップから内股にかけてのシワは消え、体型に沿った美しいシルエットのパンツになっている。

【1-4】レーヨン混ツイードのせん断特性を表したもの。内股のカーブが前パンツと縫われることで引かれて変形しても、引かれジワが発生していないのが分かる。このように、斜め方向の力が加わったときにせん断が容易に変形する素材が、シワのない美しいシルエットを作るのに適していると言える。

――この2つの素材の比較で分かるように、パンツにとっての素材選びは非常に重要である。しかし、シワのないシルエットを追求することだけが今回のテーマではない。そのシワがパンツの機能性にとって必要な運動量になる場合もある。それをどう見極めてパターンメーキングをしていくか、実はそれがパンツの最も難しいところである。

パンツの構造を決める3つのブロック

パンツの構造を理解する上で重要なのは、数値や経験値ではない。パンツのシルエットを部位ごとに分割して、それぞれの部位を平面にした時の形状を想像することである。ではどのように分割すればよいか?例えばジャケットであれば、シルエットを縦に4分割してプリンセスラインにすることで構造を理解し易くしている。パンツの場合は股の部分が要所であることは間違いないので、そこを中心としたゾーニングをすることで分割すべき部位が見えてくるはずである。

【2-1】パンツを3つのブロックに分割した図。ウエストラインとヒップラインの間をAブロック(腰部)、ヒップラインと脚の付け根の間をBブロック(股部)、脚の付け根から下をCブロック(脚部)とする。

Aブロックはスカート原型をそのまま使用する。

Cブロックは脚を包む単なる筒と考え、デザインにより変化するものとする。

重要なのは中間部のBブロックである。このBブロックの平面形状がどうなっているのか、それがパンツの構造を理解する鍵であり、パンツの全てと言っても過言ではない。

【2-2】Bブロックの平面形状を得るために、ボディーの股ぐりの断面形状を抜き取る。

【2-3】股ぐりの断面形状を抜き取る作業に使用する道具。

①自在曲線定規(80㌢のもの)。

②外パス(ノギスのように厚みが測れるもの)。

 

【2-4】抜き取った股ぐりの断面形状。CP(クロッチポイント)の位置は任意だが、ここではヒップラインの前から3分の1の位置とする。これを『股ぐりゲージ』と呼ぶことにする。

【2-5】股ぐりゲージとA・Bブロックの平面図。Aブロックのスカート原型は股ぐりゲージのヒップラインに合わせて水平に置く。Bブロックはスカート原型の脇線を下に延長し、股ぐりゲージのCPから3㌢下がったところから水平線を引く。

【2-7】Bブロックの下端の浮きをダーツのようにたたんで、Cブロックの脚部を結合したトワル。これでパンツの基本的なシルエットが完成する。

 

【2-8】ダーツをたたんだ後のBブロックの平面形状。結合する脚部の太さによってBブロックの形状は当然変化する。

――股ぐりゲージの抜き取り方は次回詳しくお伝えしたい。今回紹介したパンツをゾーニングにより分割する考え方は、ただただパンツの作図にスカート原型を使いたいという単純な希望から発案したものである。その結果、股ぐりゲージを使った作図法に発展したのだが、その作図法の紹介はもう少し後にする。次回はこの3つのブロックによる構造理論を更に詳しく解説する。