No.022 ドルマンスリーブの作図 その3
実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲
- 学習・知識
アパレル工業新聞 2020年7月1日発行 4面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。
ドルマンスリーブの由来から始まり、ドルマンスリーブの構造理論、肩が抜けるメカニズム、そしてパターン展開によるドルマンスリーブの作図と続けてきましたが、今回は平面製図によるドルマンスリーブの作図法を紹介します。
そもそもドルマンスリーブは身頃と袖の境目のない大胆なデザインが身上ですので、やれ袖原型がどうの、やれパターン展開がどうのと理屈をこねるのはこの袖の性質に合っていないような気もします。勿論、ドルマンスリーブの構造を知る上で袖原型から変化させるパターン展開の理論を知ることは重要ですが、実際に引く場合は直接デザイン線を引く平面製図のほうがより実践的と言えます。ただし、その場合に重要なのは冒頭で説明したアームホールの考え方です。この「仮想アームホール」をもとにした平面製図によるドルマンスリーブの作図法を紹介し、最後に応用編としてマチ入りドルマンスリーブの作図法も併せて紹介します。
6.平面製図によるドルマンスリーブの作図
平面製図の場合は、パターン展開と比べて出来上がりの袖の状態を想像しにくいのが難点である。精度の高いパターンを引くためには、やはりパターン展開の理論を理解した上で出来上がりの形を平面上に再現する必要がある。この作図法は従来の平面製図とは違い、仮想アームホールを基にした独自の理論で構成されているので、平面製図でありながら精度の高いパターンを引くことが可能である。
【図15】『ドルマンスリーブの作図―その1』で解説した、脇線の位置を前方に移動する理由を表した図。
【図16】▼前後身頃を脇線で合せてウエストの位置までV字のアームホールラインを入れる。※カマ底は袖の振りに応じて前に移動する。
【図17】▼前肩先を5ミリ持ち上げ、肩先を2センチ延長する。
▼延長した肩先から45度の角度で前袖線を引く。※角度はデザインにより異なる。
▼袖口に袖口寸法の2分の1から1センチ引いた長さの直角線を引く。
▼カマ底から袖口まで任意のカーブで前袖下線を引く。
【図18】▼後ろ肩先を1.5センチ持ち上げ、肩先を2.5センチ延長する。※後ろ肩先を何故前肩先よりも多く持ち上げるのかは、『テーラード・ジャケットの作図―その1』の肩パッド分の展開を参照すること。
▼延長した肩先から前袖線と同じ長さの後ろ袖線を任意の角度で引く。
▼袖口に袖口寸法の2分の1に1センチ足した寸法の直角線を引く。
▼前袖下線を抜き取って反転し、カマ底にくっつける。角度は任意でよい。
▼後ろ肩先を基点にして袖口下端から円弧を描く。
▼カマ底を基点にして後ろ袖下線の端から円弧を描く。
【図19】▼2つの円弧の交点で交わるように後ろ袖線と後ろ袖下線をそれぞれ回転する。
図16~19を「パターンマジックⅡ」で作図
【図20】▼袖の前振りが足りない場合は、アームホールから袖下線のカーブに向かって切り込みを入れ、肩先とカマ底を基点に袖下線のカーブを切り開く。開いた分は前袖下線の伸ばしにする。
【図21】完成したドルマンスリーブのパターン。
――前回の試着による検証結果に従い、肩線の移動は行わない。もし移動すると、後ろ肩先のイセが相当増えてしまうことになる。そのイセを減らすために後ろ肩先をたたんで調節するのは本末転倒、逆に肩が後ろに抜けやすくなってしまうことを承知しておくこと。
ドルマンスリーブのパターンをパターンマジックⅡ3Dでシミュレーション
7.マチ入りドルマンスリーブの作図
ドルマンスリーブはどうしても袖下線の長さが短くなるので、ゆとりのあるシルエットでないと腕が上がり難くなるのは致し方ない。腕を上げ易くするために袖の傾斜を水平に近づければ肩が後ろに抜け易くなってしまう。そこで袖下にマチを入れて腕が上がり易いようにしたのがマチ入りドルマンスリーブである。袖下線を長くすることはカマ底の位置を高くすることなので、これをドルマンスリーブと言っていいものなのかどうか悩ましいが、これもバリエーションの一つとしてお仲間に入れることにしよう。
マチ入りドルマンスリーブはすわりの良い構築的な袖にすることが可能なので、ジャケットやコートなどに採用されることが多い。今回はジャケットを想定して、プリンセスラインの身頃を使用して解説する。また、マチの形状は腕を下ろしたときに完全に脇の下に隠れるように菱形とする。
【図22】▼肩のゆとり分を前後とも5ミリ展開する。
▼アームホールから脇線のウエスト位置に向かって展開線を入れ、ゆるみ分としてバストラインの位置で前は1センチ、後ろは1.5センチ展開する。
【図23】▼カマ底の位置をバストラインとし、バストラインと前後の展開線との交点をそれぞれ「A」「B」とする。
▼「A」「B」からそれぞれの脇線のウエスト位置から5センチ上に向かって線を引く。
▼グレーの三角形がマチの形状となる。
【図24】▼前後のグレーの三角形を抜き取り、脇線で合わせる。
▼「A」と「B」が水平になるように置く。
▼脇線の位置から15センチ直上した線を右に(前方に)1センチ傾ける。
▼頂点を結んで菱形にする。
【図25】▼1センチ傾けた線を上に延長し袖下線とする。
【図26】▼前肩先を2センチ延長する。
▼延長した肩先から袖丈の長さの直線を60度の角度で前袖線を引く。
▼袖口に袖口寸法の2分の1に1センチ引いた寸法の直角線を引く。
▼前袖のマチを「A」に合わせ、袖下延長線が袖口線に接するまで「A」を基点に回転する。
【図27】▼後ろ肩先を2.5センチ延長する。
▼延長した肩先から前袖線と同じ長さの後ろ袖線を任意の角度で引く。
▼袖口に袖口寸法の2分の1に1センチ足した寸法の直角線を引く。
▼後ろ袖のマチを「B」に合わせ、袖下延長線(前と同寸)と後ろ袖口線が互いに接するまで回転する。
図23~26を「パターンマジックⅡ」で作図
【図28】完成したマチ入りドルマンスリーブのパターン。
――マチ部分の縫製は角度が狭く、特に前身頃の切り込みの角度が浅く縫い代が十分に取れないケースが多い。縫製の際は角部分のほつれ止めなどの処理が必須である。作図に関してはCADで引くことを想定しているので、平面製図であっても抜き取りや当てはめ、回転などの操作を多用している。手で引く場合は薄いパターン用紙やトレーシングペーパーなどを使用すれば、十分対処することが可能である。