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No.015 台襟付きシャツカラーの作図・・・その2

実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲

  • 学習・知識

アパレル工業新聞 2019年5月1日発行 4面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

台襟付きシャツカラーの作図法は、囲み製図が主流であることは前回お話しをしました。しかし、囲み製図は身頃の襟ぐりとは無関係に襟だけを製図で引くので、トワルを組んでみると身頃とのなじみが悪かったり、思っていた形状とは違っていたりすることがしばしばあります。私自身そんな経験を幾度もしてきたので、やはり襟は襟ぐりを無視して引くことはできない、という考え方で作図をしてきました。一方で、シャツの襟は長い歴史の中で形状がほぼ標準化されており、それを再現するためには囲み製図が最も有効であることも事実です。まずは襟の形ありきとし、襟ぐりはその襟がきれいに付く位置で決めればよい。つまり、襟ぐりは襟で決まるという考え方もまた正解でしょう。いずれの考え方も、精度の高いパターンを引くことが共通の目的ですので、どちらか一方にこだわらずに状況によって使い分ければよいと思っています。

さて、今回は前回の続きを少々と、台襟付きシャツカラーにありがちな問題点とその修正方法について説明します。特にレディスのシャツの場合は薄く柔らかい素材が多いので、芯地で固めた襟に身頃が負けてしまい、意図せぬ問題が発生するケースが少なくありません。また、構造上どうしても避けられない問題点もあります。それらの要因による代表的な問題点をいくつか挙げて、その解決策を一緒に考えましょう。

5.襟ぐりの変化と台襟形状の変化

ボディー原型の襟ぐり線を基準にすることで、襟ぐりの前下がり(前襟ぐりの深さ)が変化しても一定の形状を保った台襟の設計が可能である。例えば、ストレート型または反り型の台襟を前下がりの深い襟ぐりに付けると、台襟は首に張り付くように寝てきて頸動脈を圧迫する。寸法合わせの囲み製図ではこのようなことが起こり得るが、この作図法なら襟ぐりの変化によって台襟形状も変化するので、頸動脈を圧迫しない台襟のパターンを引くことができる。

【図19】3通りの襟ぐり線を描き、そこに台襟の作図をした図。ボディー原型の襟ぐり線を基準にしているので、製図上の台襟の寝かし(角度)は全て同じである。

【図20】3通りの台襟のパターンの比較。襟ぐりの前下がりが深くなるほど、台襟はスロープ型になる。

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【写真4】トワルで3通りの台襟の形状を確認。すべて同じ角度で立ち上がっているのが分かる。

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【図21】前下がりの深いスロープ型の台襟に羽襟を組み合わせたパターン。囲み製図の文法ではあり得ないパターンだが、さて、実際に付けたらどうなるか?

【図22】今回の作図法による【図21】の襟の作図。この羽襟の上下を反転し、水平に置くと【図21】のパターンになる。

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【写真5】トワルでシルエットを確認。襟としてどこも崩れることなく普通に付いている。

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――ここで言いたいことは、囲み製図ではデザインの変化に対応しきれないということ。シャツの性質上、このように前下がりの深いシャツカラーは現実的とは言えない例であることは別として、筆者を含めたパタンナーは、見慣れない形状のパターンに懐疑心を抱くものだ。そんな先入観から少しでも離れたいと思っている人は、是非この作図法を試していただきたい。

6.台襟付きシャツカラーの問題点とその修正方法

代表的な問題点としては、第1釦と第2ボタンの間に出る上前端のたるみがある。その対策として、第2釦の位置を上げて第1釦との間隔を狭める手法がよくとられる。しかし、この問題点は襟元を開いて着用したときの襟の見え方にも影響してくるのだ。ここでは根本的にたるみが出ないようにするパターンの修正方法を中心に解説する。

■台襟下のたるみが出ないようにする(その1)

【図23】台襟下のたるみが出ている状態の図。身頃の生地が襟の硬さに負けてしまうために起こるケースが多いが、パターンに問題がある場合もある。

【図24】パターンの修正方法。襟ぐりを変えずにたるみが出ないようにするためには、襟ぐり線の前中心から3~4㌢間はカーブが同じになるように台襟をたたむ。羽襟も外回りを基点に同じ個所をたたむ。

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■台襟下のたるみが出ないようにする(その2)

【図25】前襟ぐり線のカーブを変える。カーブがきついと襟ぐりを支える三角形の面積が少ないので、襟ぐりの前端が下がりやすい。カーブを緩くすることで三角形の面積が増えて、襟ぐりの前端が下がりにくくなる。ただし、襟ぐりが前中心で若干V字に交差することになる。

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■台襟下のたるみが出ないようにする(その3)

【図26】台襟の釦ホールの角度を水平にする。この手法は、ネクタイを締めたときなど、釦の位置のズレよって上前台襟が下がるのを防ぐ効果がある。また、量産品の釦付け位置のバラツキに対応した安全策とも言える。

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【写真6】海外の高級ブランドに見られる水平の釦ホール。よく見ると、更に角度をつけて逆斜めになっているものもある。そうすることで上前台襟を引き上る効果を狙っていると思われる。

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――筆者の見解だが、実際のたるみ防止の効果より、見た目の安心感やちょっとしたこだわりを演出するために使うことが多いようだ。

■襟元を開けたときにきれいに見える襟にする

【図27】台襟の釦を外して襟元を開いて着たときに、羽襟が浮いてきれいに見えない問題。釦を留めたときより羽襟の外回りが余ってしまうためだが、台襟が立ち過ぎていてもこのような状態になる。

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【図28】台襟下のたるみ対策と同様に、襟ぐり線の前中心から3㌢間はカーブが同じになるように台襟をたたむ。羽襟は外回りを基点に同じ個所をたたみ、浮きが発生する外回りもたたむ。

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――いわゆる"辛い襟"に修正するので、釦を留めたときは当然外回りがきつめの襟になることを承知しておく。釦を留めたときと外したときのどちらでもきれいに見える落としどころを探るのが、シャツカラーの難しさだと感じている。

■左右の襟先の長さが同じに見えるようにする

【図29】台襟付きシャツカラーの構造上の問題点として、羽襟の左右がどうしても段違いになるため、左右の長さが違って見えてしまうことが挙げられる。これは、襟先のポイントの間隔が狭いほど目立ってくる現象である。気付かなければ気にならない部分ではあるが、殆どのシャツは襟先が段違いになったままである。

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【図30】羽襟の左(下前)側の付け線を段差分出す。台襟その他は変更なし。縫製の際、左右を間違えるととんでもないことになるので注意。

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――厳密に言えば、左前(下前)身頃の襟ぐり線も段差分持ち上げるべきだが、実際には羽襟の修正さえやっていないのが現実である。これを機に気付いてしまった人は、きっと気になって仕方なくなるはずである。

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