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No.012 カーブドラペルの作図

実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲

  • 学習・知識

アパレル工業新聞 2018年11月1日発行 4面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

テーラード・ジャケットのラペルが折り返ることで現れる胸元の深い襟明き。この三角地帯をVゾーンと呼んでいますが、男がおしゃれをするときの要になるのがこのVゾーンです。男はジャケットを着るとき、Vゾーンをシャツの襟やネクタイで飾って個性を表現するのです。一方、レディスのジャケットにおいては、Vゾーンの表現の仕方もいろいろあるようです。例えば、より女性らしさを表現するためにラペルの折り返りを直線ではなく緩やかなカーブにすることで、固い感じのVゾーンを柔らかな印象にすることがあります。それが今回のテーマの「カーブド・ラペル」です。Vゾーンが湾曲することで胸元が広く明き、豊胸に見える...?かどうかは別として、ともすると戦闘服になりがちなテーラード・ジャケットにちょっとだけ女の色気を加えることができるのです。そんな素敵な「カーブド・ラペル」のパターンメーキングをいくつか紹介します。

1.切り替えにする方法

基本的な考え方は、襟とラペルを1枚の襟として別付けすること。これは通常のテーラード・カラーを設計するときの考え方と同じである。この方法はもっとも思い通りのカーブを作ることができ、縫製面でも作業がもっとも楽である。

【図1】襟とラペルを1枚の襟として別付けをイメージした図。

【図2】襟とラペルのデザイン線を描いた図。

【図3】襟とラペルを抜き取り展開して、1枚襟にした図。※詳しい展開方法は過去に説明しているので省略する。

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図3を「パターンマジックⅡ」で作図

【図4】前身頃の襟ぐりに1枚襟を突き合せた図。カーブにもよるが、返り止まりから9~10センチ間突き合わせる。カーブが強い程隙間が増えるので、突き合せる間隔は狭くなる。

【図5】完成した前身頃、襟、ラペルのパターン。切り替え線の位置が返り線に近過ぎると縫い代が返り線に干渉するので、切り替え線を内側(身頃側)に移動する。

【図6】見返しのパターン。身頃とは逆にラペルを見返し続きにして、交差部分を切り替えにする。

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図4~6を「パターンマジックⅡ」で作図

2.ダーツにする方法

「1.切り替えにする方法」で作図した1枚襟を切り替えにはせずに身頃続きにする。当然、突き合せた襟が身頃と重なったままではパターンにならないので、ある位置を基点にラペル端をたたむことで身頃との隙間を作り、それをダーツとして処理をする。この方法は多少のアイロン処理が必要になる。

【図7】前身頃の襟ぐりと1枚襟を突き合せた図。突き合わせる間隔は、返り止まりから前中心線との交差点までとする。

【図8】交差点を基点にラペル端をたたみ、身頃との隙間を作った図。隙間は縫い代が付けられるように空ける。

【図9】完成した前身頃と襟のパターン。ラペル端がたたまれた分は伸ばしにする。隙間はそのままダーツとなるが、返り線との間隔をとるためにダーツ止まりを内側に移動する。なお、見返しのパターンは切り替えにする方法と同じように作る。

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図7~9を「パターンマジックⅡ」で作図

――基点の位置を高くすると、ラペルをたたんだときにラペル端の重なりが多くなり、伸ばし処理が困難になる。もしもラペル端を伸ばさずにそのまま縫えば、ラペル端の長さが不足して返り止まりの位置が上がり、ダーツの縫い目がラペルの下から見えてしまうので注意しなければならない。
余談になるが、筆者はこのダーツを「カニダーツ」と呼んでいる。

3.通常のラペルから変更する方法

もっとも手っ取り早い方法である。既存のパターンを簡単にカーブド・ラペルにすることができるが、カーブ形状は若干控えめになる。縫製面でも作業が楽で、特別なアイロン処理も不要だ。

【図10】通常のラペルの返り線を図のようにカットする。

【図11】カットする部分をパターンに写し取った図。

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【図12】ゴージラインの隙間を閉じるため、〇印を基点に襟とラペルをたたんだ図。

【図13】返り線上のフィッシュダーツを襟ぐり線に移動した図。

【図14】ダーツ止まりを前中心線との交点まで短くして完成した前身頃と襟のパターン。なお、見返しのパターンも同じようにフィッシュダーツにする。

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図12~14を「パターンマジックⅡ」で作図

――ダーツがラペルに隠れるようにダーツ止まりを上げて短くするのは定石だが、「2.ダーツにする方法」ではラペル端に伸ばしを入れるのに対し、こちらは伸ばしを入れていない。その理由は見返しを同型で取るため、双方に伸ばしを入れることは困難だからだ。よってこの方法を使う場合は、返り止まりの位置が設定より多少なりとも上がることを承知しなければならない。

4.アイロンでいせ込む方法

これはかなり難度の高い方法である。切り替えやダーツ縫いを使わずに、アイロン操作だけで1枚の布の返り線をカーブさせるので、上手くカーブするかどうかはアイロン操作の技術と素材の適否にかかってくる。なお、いせ込むのは本体のみで、見返しは切り替え仕様とする。

【図15】バストダーツを全量前中心に逃がして通常のラペルを作図した図。バストダーツは3本に分散している。

【図16】返り線上のダーツ分をラペル端までのダイヤダーツとして完成した前身頃のパターン。このダイヤダーツをアイロンで殺していく。

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【図17】見返しを抜き取って襟ぐり線で分割し、それぞれダーツをたたんだ図。

【図18】完成した見返しのパターン。切り替え線は内側に移動している。

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【図19】アイロン操作の解説図。平台でのアイロン操作を前提にしているので、ラペルをあらかじめ返り線で折りたたんでからいせ込み作業を行う。折りたたまずに返り線をいせ込むことも可能だろうが、難度は相当上がるだろう。

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――どうせ見返しを切り替えるなら何のためにわざわざ本体をいせ込むのか?そんな疑問を抱く人は、見返しも切り替えずにいせ込みにしては如何だろう。大変な手間になるだろうが、そのほうが見た目にもすっきり仕上がるかも知れない。筆者自身はやったことがないが、そもそも筆者はアイロン操作の技術力に乏しいので、やろうとは思わないが。

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