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No.008 テーラード・ジャケットの作図・・・その6

実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲

  • 学習・知識

アパレル工業新聞 2018年3月1日発行 7面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

テーラード・ジャケットのパターンメーキング・・・その6

身頃と襟の作図が終わり、大要として残すは袖のみとなりました。袖については言わずもがな、服を構成するパーツの中でもっとも難解で、いつも我々を悩ませている永遠の課題でもあります。それ故、袖に関する製図法や理論は実に様々で、私自身日々模索をしているような状況です。そんな袖の作図にいよいよ入ります。 テーラード・ジャケットの袖といえば、肘ぐせのついた2枚仕立てのセットイン・スリーブであることが世の習いです。あまり聞きませんが「テーラード・スリーブ」と呼ぶこともあるようです。この言葉を辞書で引くと、背広服の袖に見られる硬い感じの袖である、とのことです。そういえば「テーラード・カラー」を辞書で引いたときも、硬い感じという表現が使われていました。「テーラード」と呼ぶからには、そこは引けない大事な要素なのでしょう。それはさておき、多種多様な袖の製図法の中にあって、いわゆる「テーラード・スリーブ」の製図に関しては、どの資料を見ても殆ど同じように見受けられます。紳士服の囲み製図の長い歴史によって、袖の製図もほぼ確立されているからだと思いますが、初回から述べているように、囲み製図では分かりにくかった部分をできるだけ分かり易く、且つ簡単に作図するのがこの教室の主旨です。そのために、まずは基本的なセットイン・スリーブの構造を理解することから入りましょう。そして、永遠の課題である袖のパターンメーキングを一緒に攻略しようではありませんか。

第3章 袖の作図

1.アームホールから袖山が出来るイメージ

袖の作図には二つのアプローチがある。一つは、袖幅を先に決めてから袖山を引く方法。この場合、必要な袖山の高さを得るためには相応のイセ分量が必要となるが、イセ分量の制限によって袖山を低くしなければならない場合がある。もう一つは、袖山の高さを先に決めてから引く方法。この場合、すわりのよい袖にすることができるが、イセ分量の制限によって袖幅を細くしなければならない場合がある。つまり、どちらのアプローチも袖山のイセ分量が最終的な袖の形を左右することになる。無尽蔵にイセが入る生地であればどちらの方法でも同じことだが、ここでは袖のすわりと適切なイセ分量を重視して、袖山の高さを先に決めて作図する方法を説明する。

【写真1】実際の身頃をボディーに着せ付けて横から見た写真の上に、身頃のパターンを重ね合わせた図。この状態のアームホールに袖がつくことになる。

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【図1】身頃原型のアームホールを【写真1】のように肩で縫い合わせた状態にする。このとき、脇線とSP(ショルダーポイント)の位置関係が重要になるので、ボディーを見て実際の位置関係と同じになるように調整する。このときのアームホールの高さは、アームホール寸法の約36%になる。この36%がテーラード・ジャケットの袖山の高さの基準となる。

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【図2】アームホールの高さ=袖山の高さであることを表した図。アームホールと袖山を二等辺三角形に例える。
①は腕がない状態。アームホールがほぼ垂直に立っているので、袖にはやや傾斜がつく。
②は腕が入った状態。アームホールのカマ底が脇下に着くため、袖は垂直に近くなる。

――肩幅にもよるが、標準的な袖であれば「袖山の高さ=アームホール×36%」と覚えておくとよい。それ以上だと袖山のイセ分量が多くなり、それ以下だと袖のすわりが悪くなる。

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【図3】SPをゼロとして、袖が付いた状態の袖山のデッサンを描く。このとき、アームホールの前後に袖の厚み分を振り分ける。厚み分は前後同寸または後ろを少し多めにする。
※厚み分の寸法は任意に決めてよいが、袖幅の指定がある場合は、袖幅の2分の1からカマ幅を引いた寸法を前後に振り分ける。

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【図4】袖山が出来るイメージ。アームホールから袖山のデッサンに向かって展開線を入れ、各ブロックを反転すると袖のパターンが出来上がる。

――この図は、あくまでイメージであり、ロジックではない。筆者は袖山のカーブを論理的に引く方法はないと思っている。この方法でも作図は可能だが、いちいちやってられない。袖の構造を理解するためのトレーニングとして捉えていただきたい。

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2.袖原型の作図(アームホールゲージを使用する)

袖の作図は難しい。できれば簡単に引きたいが、簡単に引いて精度の高い袖が出来る可能性は低い。逆に精度の高さを求めると作図はどうしても複雑になる。結局、精度の高い袖を簡単に引くためには、経験を積み重ねて自分なりのコツを習得するしかない。そこで、少しでも袖山のカーブを描きやすくするために、アームホール・ゲージを使用する方法を紹介する。基本的には経験を積み重ねることが前提であるが、その分小難しい数値理論がなく、視覚的に作図をすることが可能である。

【図5】
▼カマ底から上に袖山の高さをとり水平線を引く。(アームホールの36%)
▼水平線上にSPの位置を決める。

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【図6】
▼SPから前後のアームホール寸法をそれぞれコンパスで振り、三角形を作る。
※基本はアームホール寸法ズバリだが、袖山のイセ分量の塩梅により、コンパスで振る寸法を増減して調整する。

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【図7】
▼三角形の底辺をそれぞれ2等分し、垂直線S1、S2を引く。※このS1、S2が袖の前後の厚み分となるので、前後のバランスを確認する。
▼前後のカマ底のカーブをS1、S2を軸にして反転し、それぞれK1、K2とする。
▼三角形の高さを2等分した水平線MSを引く。

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【図8】袖山のカーブを描くためのガイドとして使用するアームホール・ゲージ。※ボディーの肩(腕)の断面をそのまま写し取ったもので、山頂部の形状と厚みを決める目安となる。

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【図9】
▼アームホール・ゲージをSPに合わせて据える。
▼アームホール・ゲージをガイドにして、SP~MS~K1・K2をガイドに前後の袖山線を描く。※山裾部はK1、K2の端から3~4㌢間重ねるように描く。
※袖山の中間部の幅(MSの位置)が袖幅の2分の1より5㍉~1㌢広くなるようにする。

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図5~9を「パターンマジックⅡ」で作図

【図10】袖山のイセの配分例。山裾部のノッチは袖山の高さの4分の1を目安にして、アームホールのノッチと同じ高さにする。全体のイセ分量はアームホール寸法の8~9%前後を目安に調整する。※図のイセ分量はアームホール寸法が43センチの場合の配分例である。

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図10を「パターンマジックⅡ」で作図

【図11】袖原型の完成図。※EL(エルボーライン)はボディーのウエストラインと同じ高さに設定する。

――袖山のカーブで一番難しいのが山頂部である。この部分の微妙なカーブを描くために、数値を用いて複雑なガイドラインを引く製図法が多いが、今回紹介した作図法は、ほぼフリーハンド。多分に慣れと感覚が要求されるが、それこそがパターンメーキングの醍醐味だぜ、と筆者は思っている。

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