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No.003 テーラード・ジャケットの作図・・・その1

実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲

  • 学習・知識

アパレル工業新聞 2017年5月1日発行 5面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

テーラード・ジャケットの作図・・・その1

今回からテーラード・ジャケットのパターンメーキングを数回にわたって掲載します。

ジャケットの構造には大きく分けて「3面体」と「4面体」がありますが、レディスのジャケットにおいてはプリンセスラインやパネルラインなどの「4面体」が多く見られ、メンズライクなテイストを求める場合に限って「3面体」が主流となっています。今回のテーマであるテーラード・ジャケットとは、本来『男物のような』や『男物仕立ての』という意味ですので、本編では「3面体」の構造理論を中心に話を進めていきます。そして、最後にプリンセスラインやパネルラインなどの「4面体」についても取り上げ、「3面体」との構造の違いを解説します。

一般的な「3面体」の作図法は、紳士服の囲み製図がそのままレディスに下りてきているケースが多いようで、囲み製図にあまりなじみのないパタンナーにとっては苦手なアイテムといえるかも知れません。そこで今回は、従来の方法とは違うアプローチにより、囲み製図では分かりにくかった部分をできるだけ分かり易く、且つ簡単に作図する方法を紹介します。

テーラード・ジャケットはあらゆるアイテムの中でも技術的要素が多く、それらの技術には歴史的な背景が深く関係しています。テーラード・ジャケットを如何に攻略するか、それが全てのパターンメーキングの技術向上につながるものと考えています。それでは、早速攻略を始めましょう。

第一章 身頃の作図(3面体)

1.パターン形状の観察

パターンメーキングの説明に入る前に、まずは3面体の身頃がどのような形状になっているか観察する。基本的な3面体ジャケットのパターンは、サイズやシルエットによる多少の違いはあるにせよ、大体似たような形状をしている。理屈よりもカタチから入ることで「3面体とはこういうものだ」と思ってしまえば、少なくともパターンを引く際に大間違いをすることはない。

【図1】メンズの3面体ジャケットのパターン。胸度式囲み製図により、ヨコのラインはすべて水平である。確認すべきことは、前身頃と脇身頃が腰の部分で重なり、後ろ身頃と脇身頃は裾で隙間が開いていることである。※背中心が斜めに振り込まれているが、ここでは気にしないでおく。

【図2】レディスの3面体ジャケットのパターン。メンズのようにバストラインを水平にして並べた状態である。確認すべきことは、メンズと同様に前身頃と脇身頃が腰の部分で重なっていることである。後ろ身頃と脇身頃についてはメンズのように隙間は開いていないが、裾回りの設定寸法によってはやはり隙間が開く場合がある。

2.ボディーによる体型の観察

パターンにおける両者の共通点は、前脇線が裾で交差し、後ろ脇線は交差しない(または隙間が開く)ことである。何故このようになるのかを、メンズとレディスのボディーを使用して説明しよう。

【図3】メンズとレディスのボディーにストレートの身頃を着せたイメージ図。身頃は垂直に落ちている。側面から見るとどちらの身頃もボディーに沿って垂直に落ちているが、斜め前方から見ると後ろ身頃の裾はボディーから離れ、前身頃の裾はボディーにぶつかり重なっている。

【図4】それぞれのボディーのバストとヒップの断面を上から見た図。ストレートの身頃を着せ付けたときに直下した裾が、ヒップにぶつかる箇所と離れる箇所があるのが分かる。3面体の身頃に当てはめると、前脇線はヒップにぶつかる分が裾で交差し、後ろ脇線はヒップから離れる分が裾で隙間が開くことになる。これが3面体ジャケットのパターン形状の理由である。

――とかく体型を語るときは人体(ボディー)を正面と側面から見ることが殆どだが、このように角度を変えて見ると体型の複雑さがよく分かる。このことはジャケットに限らず全てのパターン設計においても重要なことなので、是非とも知っておいて頂きたい。

3.肩パッド分の展開

「服は肩で着る」と言われているように、テーラード・ジャケットも肩の設計が重要となる。ここではボディー原型を使用し、肩パッドを入れると肩線はどのように変化するのか検証する。ジャケットにおける肩パッドの形状や厚さはその時代の流行により変化するが、ここでは基準値として厚さ1センチ、コンケーブなしのセットイン・タイプとする。

【図5・図6】ボディー原型の肩を展開した図。あまり細かく切り刻んでも無意味なので、展開箇所は最低限としている。また、肩パッドの厚みによって増加するカマ幅やバスト寸法の展開も省略している。【図5】は前後の展開量が同じで、【図6】は前肩の展開量が少なく、後ろ肩の展開量が多くなっている。さて、どちらが正解か?

【写真1】は【図5】のパターンを紙で組み立ててボディーに着せ付けたもの。アームホールが変形していて、とても肩パッドが入る状態ではない。これは襟ぐりの変化によって前後天幅のバランスが崩れるからである。

【写真2】は【図6】のパターンを紙で組み立ててボディーに着せ付けたもの。前後天幅のバランスが崩れていないので、アームホールが変形することなく肩先が持ち上がっている。このとき、SP(ショルダーポイント)は前方に移動する。

「パターンマジックⅡ3D」で図5と図6のパターンを3Dシミュレーション

【図7】肩先が持ち上がるときの状態を表した図。襟ぐりが支点となるため、前側の支点は低く、後ろ側の支点は高くなり、肩先は斜め上に持ち上がる。そのため、展開量は前肩が少なく、後ろ肩が多くなる。これは肩パッドが厚くなるほど顕著になる。従って、論理的には【図6】が正解。

――実際問題、前後の展開量が同じでも、襟ぐりが深いテーラード・ジャケットにおいては前後天幅のバランスの崩れなどないに等しく、全く影響はない。しかし、どんなデザインにも対応するためには、こうした理屈を知っておくことが重要である。

4.作図の要点

ここから身頃の作図に入るが、スペースの関係で要点のみの説明とする。 【図8】身頃の作図にはボディー原型を使用する。ボディー原型はゆとり有り・なし、どちらでもよい。また、前身頃はバストラインが水平のものを使用し、後ろ身頃は水平でも水平でなくてもよい。ここでは「ゆとり有り・バストラインが水平でないもの」を使用する。

【図9】肩~バストラインまでの設計要素は次の①肩傾斜、②前後の天幅、③前丈と後ろ丈――の3つがある。ボディー原型を使用する目的は、この3つの要素を設計するためだけであり、それ以外は基本的に平面製図で作図する。

【図10】ボディー原型を展開し、構造線とデザイン線を入れて完成した身頃の製図(マニピュレーション前)。

――この製図をご覧になり、でき上がりの形状はともかくボディー原型の扱い方に「何、これ?」と違和感を覚える方がいるかも知れぬ。そのあたりを次回詳しく説明したい。

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