No.043 パターンの基礎(その1)天幅って何?
実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲
- 学習・知識
アパレル工業新聞 2024年3月1日発行 7面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。
今回から初心に帰ってパターンの基礎を復習していきましょう。まずは原型に関することからです。パタンナーやデザイナーを目指す学生が最初に教わるのがその学校の原型の引き方です。原型にはそれぞれの学校の方式がありますが、殆どが人体バランスから割り出された独自の数値によって構成されています。あるいは学校の標準ボディーや市販の工業用ボディーから抜き取り、平面展開したものを原型として使用しているケースもあると思います。そんな最も基本的な原型の構成要素の一つであり、人体バランスの要素でもある「天幅」について学んでみたいと思います。
1.天幅の定義
天幅をJIS(日本産業規格)で定められた衣服用語集で調べてみると、【天幅】→【えり天幅】=「えりぐり部分の左右の幅」となっている。よくニットやカットソーの検寸項目で目にする用語だが、布帛の洋服の検寸項目には滅多に目にすることがない。衣服の検寸では平置きにして平らになる部分が測り易いのだが、布帛の洋服は肩から胸にかけては平らになり難い場合が多く、「えりぐり部分の左右の幅」を正確に測れないからである。しかし、パターン設計において天幅は着心地やフィット性を決める上での非常に重要な要素となっている。
天幅の言葉の由来は、衣服の寸法の幅を示す部位で衣服の一番上(天)にあたるからというのが一般的である。ちなみに、天幅に関連した用語に「えりみつ」がある。「えりみつ」をJISの衣服用語集で調べると、【えりみつ】→【後ろえりぐり】=「上衣の後ろ身ごろのえりぐりの部分」となっている。襟が付く部分を総じて「えりみつ」と言う場合もあるが、本来は紳士服のジャケットの襟が首に綺麗に吸い付くか否かを決める重要な要素として用いられる用語である。
2.天幅の前後差
肩に縫い目のある衣服であれば、身ごろのパターンは前身ごろと後ろ身ごろに分かれる。従って襟ぐりも肩の縫い目を境に前襟ぐりと後ろ襟ぐりに分かれる。このときの前襟ぐりの左右の幅を「前天幅」、後ろ襟ぐりの左右の幅を「後ろ天幅」とすると、天幅に前後差はあるのか?あるとすれば、前後のどちらが狭くどちらが広いのか?この最も基本的はパターン(人体)の構造を、改めて検証してみよう。
■成人女子は前天幅より後ろ天幅のほうが広い
【図1】レディスの身ごろ原型の例。原則的には前天幅より後ろ天幅のほうが広い。
―― 一般的には後ろ天幅の方が半身で1~1.5センチ広い。但し、体型によってはその限りではない。また、成人男子も原則的にその限りではない。
■何故、前天幅より後ろ天幅のほうが広いのか?
【写真1】ボディを横から見た写真。肩先点(以下SP)から前中心(以下CF)までの距離と、後ろ中心(以下CB)までの距離を比較すると、SP~CFよりSP~CBのほうが長いのが分かる。これは人間の肩が前方に回り込む、いわゆる前肩になっているためである。
【図2】SP~CFとSP~CBの距離の差を原型で表した図。これらの距離の差は、天幅の前後差や胸幅と背幅の寸法差と連動している。
■体型によって天幅の前後差は変化する
【図3】標準体を基準に、反身体や屈身体の場合のパターン形状の変化に見る天幅の前後差の変化を比較した図。
▼反身体はSPが後方に移動し、首の傾斜が起きてくる。胸幅が広がり背幅が狭まるので、それに連動して前天幅が広くなり後ろ天幅が狭くなる。天幅の前後差が逆転するケースもある。
▼屈身体はSPが前方に移動し、首が前方に傾斜してくる。胸幅が狭まり背幅が広がるので、それに連動して前天幅がより狭くなり後ろ天幅がより広くなる。
3.正確な天幅の前後差の測り方
このように、天幅の前後差を測れば、そのパターンあるいは原型がどのような体型に基いて作成されているのか、ある程度判断できる。しかし、ただそこにあるパターンあるいは原型の天幅をそのまま測ったのでは、正確な天幅の前後差を知ることはできない。では、どのようにすれば正確な天幅の前後差を知ることができるのだろうか?その方法を説明する。
【図4】サイド・ネック・ポイント(以下SNP)の位置による天幅の変化を表した図。SNPの位置は肩線を何処に設定するかによって決まるが、それによって見掛けの天幅は変化する。
――元々SNPの位置は解剖学的には存在しない点であり、最も特定することが困難な点である。それ故SNPは数値によって便宜上決めるのが一般的である。その数値はある程度一般化されてはいるが、何処にするかはそれぞれのパタンナーの感性によって決められている。このような現状であるからこそ、SNPや肩線の位置に関係なく正確な天幅の前後差を測る方法が必要なのである。
【図5】正確な天幅の前後差の測り方①。
▼前身ごろと後ろ身ごろを肩線で突き合わせ、互いのバストライン(以下BL)が重なるように折りたたむ。(BLは前後とも水平にしておく。)
▼このときにずれる前後中心線の差が、正しい天幅の前後差である。
【図6】パターン上での天幅の前後差は違っていても、実はすべて同じ前後差であることを表した図。パターンの本当のバランスは表面には見えないという例である。
【図7】正確な天幅の前後差の測り方②(CADでの操作に適した方法)。
▼前身ごろと後ろ身ごろを肩で突き合せて、互いのBLを延長して交点を求める。(BLは前後とも水平にしておく。)
▼BLの角度2等分線を引き、その線を軸に後ろ身ごろを反転する。
▼このときにずれる前後中心線の差が、正しい天幅の前後差である。
以上、天幅だけでもこれだけ検証の余地がある。初心に帰るとは言え、初心から見落としていた部分かあるのではないだろうか。今後もパターンの基礎を、復習ではなく1から勉強し直していこうではないか。