No.006 テーラード・ジャケットの作図・・・その4
実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲
- 学習・知識
アパレル工業新聞 2017年11月1日発行 5面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。
テーラード・ジャケットのパターンメーキング・・・その4
いよいよ(やっと)今回から襟の作図に入ります。テーラード・ジャケットの襟は一括りに「テーラード・カラー」と称しますが、この言葉を辞書で引くと、いわゆる<背広襟>のことであり、紳士の背広やオーバーコートなどにみられるキザミの入った襟型で、丁寧に仕立てと入念なプレスによって硬い感じに仕上げられた襟である、とのことです。硬い感じが正解かどうかはともかく、やはり『男物のような』(メンズライク)というのが作図におけるポイントになるであろうと思います。よくテーラード・カラーはスタンド・カラーを折り返して着たものであり、そのルーツは軍服にあるような説を見聞しますが、私個人の見解として両者は構造的に全くの別物であると解釈しています。
では、テーラード・カラーを設計する際、重要なポイントとは?それはラペルまで含めて全部を襟として捉えて設計することです。
第2章 襟とラペルの作図
1.襟ぐり線の決定
テーラード・カラーにおける襟ぐり線の考え方について説明する。テーラード・カラーは襟の部分とラペルの部分に分けられるが、全部を襟として捉えると襟ぐり線はどのような線になるか見えてくる筈である。更に首を圧迫することなく首に沿った襟を付けるためにはどのような襟ぐり線が適切かを考える。
【図1】襟とラペルを一枚の襟として別付けにした図。このときの本体の襟ぐりがテーラード・カラーの襟ぐり線となる。
【図2】首に沿った襟を付けるための襟ぐり線を表した図。天幅が狭い襟ぐりは首の"登り"に掛かり、肩に空隙ができて首に負荷が掛かる。天幅を広くすることにより、肩の空隙と首への負荷を減らし、圧迫感のない襟になる。天幅を広げることで襟が首から離れるので、襟腰を寝かして首に沿わせる。
――襟腰を寝かした襟は必然的に襟足の高さが低くなり、フラットカラーに近い形状になる。
2.襟とラペルのデザインの決定
【図3】
▼3面ジャケット原型の前身頃と後ろ身頃を肩で突き合わせる。
▼前持ち出し幅を釦の半径+8㍉出す。
▼ラペルの返り止まりをWL(ウエストライン)の高さとし、点Dとする。
▼SNP(サイドネックポイント)から1㌢~1.5㌢外側に点Eをとり、返り止まりの点Dまでの間を直線で結び、襟ぐり線NL(ネックライン)とする。
▼点EからNL上の任意に下がったところに点Fをとる。
▼BNP(バックネックポイント)から点F間をカーブで結び、新しい襟ぐり線NL′とする。
――点Fの位置はゴージラインの高さに比例する。ゴージラインが高ければ点Fも高くなり、ゴージラインが低ければ点Fも低くなる。仮に点Fが高いときにゴージラインの位置を低く設定すると、ラペルの返り線がカーブしてしまうことになるので注意する。
【図4】
▼襟ぐり線NLを点Fから上にNL′と同寸法延長し、点Gとする。
▼点Gから襟腰幅の直角線を引き、点Hとする。
▼点Hから3㌢の直角線を引き、点H′とする。
▼点H′から点Dまでの間を直線で結び、H~Dまでを返り線RL(リバースライン)とする。
――グレーで塗りつぶしたくさび形の図形がテーラード・カラーの襟腰になる。重要なのは「襟ぐり線」と「返り線」をはっきり区別すること。
図3~4を「パターンマジックⅡ」で作図
【図5】くさび形の図形に展開線を入れ、返り線側をたたんで襟ぐりのカーブに沿わす。
【図6】上襟幅とラペル幅を決め、返り線RLより身頃側に襟とラペルのデザイン線を描く。
図5~6を「パターンマジックⅡ」で作図
3.襟の作図①(抜き取り展開)
襟とラペルのデザインが決まったら、襟の作図法方を2通り紹介する。まずは抜き取り展開という方法の説明に入る。これは【図6】の襟の部分だけを抜き取って、パターン展開によって作図する方法である。(実践!レディス・パターン教室02の「8.パターン展開によるフードの作図」と同じ方法)
【図7】襟のデザイン線を抜き取る。
【図8】更に襟腰部分を抜き取り反転する。
【図9】上襟と襟腰の返り線同士をA、Bの2点で突き合わせる。このとき、A~Bの間で返り線の隙間が1㍉以内になるように2点の間隔を決める。
【図10】Bから直角に展開線を入れ、次の展開点Cを求めるために切り開く。B′~Cの間で返り線の隙間が1㍉以内になるようにする。
【図11】これを繰り返す。
【図12】展開が終了した状態。
――この作図法方はテーラード・カラーだけではなく、あらゆる襟のデザインに応用が可能。どんな場合であっても返り線が必ずスムーズなカーブを描くので、襟として破綻することがない。但し、最初のデザイン線の描き方によって出来上がりの形状が大きく左右されるので、望み通りのパターン形状を得るには慣れが必要である。
図7~12を「パターンマジックⅡ」で作図
3.襟の作図②(コンパスを使った平面製図)
次は平面製図によって作図する方法である。一般的な製図とは違い、先に紹介した抜き取り展開のメソッドをコンパスを使用して平面製図に置き換えた方法である。
【図13】襟のデザイン線から必要寸法を測る。後ろ襟ぐり寸法をX、後ろ襟外回り寸法をYとする。
【図14】
▼襟ぐり線NLを直線で延長し、肩線との交点をAとする。ラペルと襟のデザイン線を返り線RLで反転し、反転した襟の端点をBとする。
▼A点から、後ろ襟ぐり寸法Xを半径とした弧をコンパスで描く。
▼B点から、後ろ襟外回り寸法Yを半径とした弧をコンパスで描く。
【図15】
▼返り線RLと肩線をそれぞれ延長し、交点をCとする。
▼2つの弧の接線を引き、Lとする。
▼C点から接線Lに向かって直角線Mを引く。
▼Mを基準にして、襟付け線Nと襟外回り線Oを平行に引く。
【図16】M、N、Oそれぞれの線が自然につながるように引き直す。
――一般的な囲み製図では襟の倒しを角度や寸法で決める方法が多いが、コンパスを使う方法では襟ぐり寸法と襟外回り寸法の差寸によって倒しが決まる。つまり、もともと「襟の倒し」という概念はない。抜き取り展開と同様、襟のデザインに応じた最適なパターン形状を得るためのメソッドである。
【図17】C点の位置によるパターン形状の変化を表した図。C点の位置が高いと後ろ中心が持ち上がった山型になり、逆にC点の位置が低いと平らな形状になる。
――コンパスを使って襟を作図する際、最も重要なのはC点である。【図15】において返り線と肩線を延長した交点をC点とした。このC点の位置を変えると襟のパターン形状が変わるが、パターン形状の変化が外観にどのように影響してくるか次回説明する。
図13~16を「パターンマジックⅡ」で作図