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プレスリリース


東レACS「量産型ビジネスに閉塞感」アパレル工業新聞掲載

2016年7月1日 アパレル工業新聞掲載

東レACS「量産型ビジネスに閉塞感」
多田明博東レACS社長に聞く ~セミオーダーで新提案~ パタンナーの不安にも対応


 大手アパレルを中心とした販売及び業績不振は、これまでのビジネスモデルの行き詰まりでもある。縫製工場はもとよりパタンナーなどの厳しい状況もそのことと無縁ではない。グローバルSPAと日本のアパレルとのビジネスモデルの違い、セミオーダーへの対応などCADメーカーの今後を東レACSの多田明博社長に聞いた。
  ◇  ◇
 ――市場及びビジネス環境について。
 「アパレルは大手を中心に厳しく、量産型ビジネスの行き詰まり感が強い。世界的に見ると、衣類自体が売れなくなっているわけではなく、日本アパレルの大手が売れない。グローバルSPAがかなりの部分を持って行っているということかも知れない。正直、若者の人気はZARAの方が高い。フレッシュさが違う。シーズンの初めだけフレッシュな日本のビジネスモデルと週単位でフレッシュなものを投入するビジネスモデルのところが進出し、それが評価され伸びている。グローバルSPAが難しいことをやっているとは思わない。仕組みを作り、マーケットを開拓し、持って行く先がいろいろある。これに対して日本は、作るところはグローバルに展開したが、マーケットは日本だけ。輸出比率は極めて低い。欧州のブランドで成功しているところはSPAで、自分のところで作って自分で売るということを続けてきた。これに対して、売るのは百貨店まかせという日本の多くのアパレルのやり方とは、自ずから差が出る。分業が長く続き、手を広げて企業規模が大きくなり、自らは手配師になってしまっているのが日本の大手。そこの行き詰まり感だと思う」
 ――ZARAとの違いをもう少し。
 「ZARAは約六千店舗を持っており、そこに自社の社員がいる。日本のアパレルの二、三倍多い。売るところに人を置いているので、そこの情報がちゃんとフィードバックされている。お客さんの反応が返って来ているので、次の企画に結びついている。日本はそこが欠落していて、最終的にバーゲンをやり残ったものが返って来てやっと分かるので、全く遅い。赤字でもたたき売るという悪循環。今の大手のやり方では、自分の作ったものの良し悪しがフィードバックされないので、パタンナーは自分がちゃんといいものを作れているかどうかが最後まで消化できない。今のビジネスモデルの行き詰まりの中で、パタンナーはスキルアップの不安を抱えている。当社は最近、スキルアップセミナーを開催しており、募集するとすぐ埋まる。CADの使い方ではなく、服の作り方に重点を置いているが、非常にニーズが強いと感じた」
 ――モノ作りにも分業の弊害が。
 「英語でデザインと言えば、スタイルと構造と合わせてデザイン。日本でデザインはスタイルのみ。パタンナーが担当する構造はデザインと見做されていない。そこの一体感が崩れている。平面と立体の相互コミュニケーションがあって初めてちゃんとしたものが出来るが、そこが欠落している」
 ――現在、経営戦略で注力しているのは?
 「現在の中期経営計画は今年で終了するが、二〇二〇年までにクレアコンポⅡに置き換えるのが第一のターゲット。これにはその一環として3Dも含まれる。第二は、セミオーダーへの対応。クレアコンポの時は『マジックフィット』をパッケージで上市していたが、単にクレアコンポⅡ版にするのではなく、提案型ビジネスとしてセミオーダーを設定していく。今後、セミオーダーはアパレルにとって競争力の源泉の一つになる。既製品だけでビジネスが出来るところはほとんどないだろう。セミオーダーで対応できるような仕組み作りを提案していく。服の基本はオートクチュールで一点もの。原点回帰ではないが、服の本来あるべき姿に戻す必要がある。今の3Dもセミオーダーで本当にフィットするかどうかを確認するということも含めて考えていきたい」
 「今のセミオーダーは、どちらかと言うとサイズの変更でグレーディングが中心だが、スタイルも含めて体型に合っているかどうかを見ていけば、品質という意味では理想に近づける。かつコストもそれほどかからない。そういうものが出来るのではないかと思っている。ポイントはやはり対象に合ったフィット感が確認できること。仮縫いを何回もやるわけにいかないので、それに近い品質が出来るような仕組みにする。将来的には、スキャンで得たデータで着せ付けて、スタイルを含めてどう変わるのかを確認した上で縫製して納品する流れになる。当社は基本的なパターンを作るツールと、3Dで品質をチェックするという仕組み、出来上がったパターン情報を工場に送って縫製する、仕様書システムを組み合わせてセミオーダーに対して提案する。上流工程のキーポイントを押さえることが出来ると思っている。今のパターンオーダーは若い人には受けない。若い人にも受け入れられるようないろんなスタイルで、しかも自分に合ったサイズで、ということになっていかないといけない。消費者はモノは持っている。他の分野のヒット商品を見てもモノ自体や機能ではなく、体験を買ったりするケースが多い。服も同じで機能ではなく、ワクワク感とか自分が持っていなかった感動とかを服が表現してくれるなどが重要な要素になる。インダストリー4.0の一つのキーワードはパーソナライゼーション(個別対応)。3Dで言っていることだが、平面の素材を立体に変えて、着心地の良い、フィットしたものをどうやって作るか。その際、見た目で感覚的に良いだけでなく、道具としてちゃんと提供出来るようにするのが我々の仕事。デジタルを抜きにしては何も出来ない。一つの時代だと思う。デジタルをどうやって使いこなすかということになる。今話題のAIは、考え方が今までとは全く違い、本当のコンピューターの強味が生かされるような学習方法。服の設計にも使えると思うし、関心を持っている」
 ――最後に、今後の海外展開は?
 「現状、香港、上海、タイ、ベトナムに代理店があり、基本的に対象は日系企業。次の中計で現状のままで行くのか、海外をもう少し拡大するかを決めたい。海外に広げる場合は、デザインに注力する。パターンだけでなく少し前のスタイルを吟味する3Dを含めて、統合型のビジネスでマーケットとして確立できるところが対象。そうなると東南アジアではない。近場では中国、出来れば欧米だが、その可能性の見極めがポイントだ」