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No.004 テーラード・ジャケットの作図・・・その2

実践!レディース・パターン教室 著:菊地 正哲

  • 学習・知識

アパレル工業新聞 2017年7月1日発行 5面
この記事・写真等は、アパレル工業新聞社の許諾を得て掲載しています。

テーラード・ジャケットの作図・・・その2

前回はジャケット設計における基本的な考え方を説明しましたが、今回から実践的なパターンメーキング作業に入ります。前回の[4.作図の要点]で示した身頃の製図をご覧になり、ボディー原型の扱いに違和感を覚えた方もいると思いますので、そのあたりを詳しく説明します。

5.ストレート原型の作図

前回[2.ボディーによる体型の観察]で、ボディーにストレートの身頃を着せ付けた図をもう1度見て頂きたい。図のようなストレートのラインからウエストを絞ってシルエットを作っていくのがこの作図法の段取りである。ストレートとは言っても実際には図のように垂直に落ちるものではないが、構造線を入れる前段階として、まずはこのストレート原型を作図する。

【図11】ボディー原型にダーツの展開線を入れる。3面体ジャケットの多くは「肩ダーツなし」が前提なので、肩ダーツをなくすために他所に分散するのが目的である。前身頃に関してはバストダーツをなくすのではなく、ゆとりを最適にするためにバストダーツ量を振り分けるのが目的である。

①肩ダーツから後ろ中心への展開線。

②肩ダーツから後ろ襟ぐりへの展開線。

③肩ダーツから後ろ袖ぐりへの展開線。

④バストポイントから前袖ぐりへの展開線。

⑤バストポイントから前襟ぐりへの展開線。

――展開線はすべて展開先の仕上がり線に向かって直角方向に入れる。「開くこと=浮かすこと」なので、仕上がり線がボディーからどのように浮いてくるかをイメージして展開線の角度を決めて頂きたい。

【図12】▼基準線BL(バストライン)と前後中心線を引く。F~Bはバスト設定寸法の2分の1に2㌢足した寸法にする。※ここではバスト寸法を92㌢で設定しているので、F~Bは48㌢である。

▼ボディー原型を基準線に合わせて据える。

▼展開線①~⑤を展開する。

①の展開量は3㍉を限度とする。※ここは本来浮かせたくない場所なので、ゼロにする場合もある。

②の展開量は後ろ襟ぐりをどれだけ浮かすかによる。※首回りに圧迫を感じやすい人や肩が凝りやすい人は浮かしたほうがよい場合があるが、ここではゼロにしている。

③の展開量は肩ダーツをイセ分として何㍉残すかによって決まる。※ここではイセ分を5㍉として、その結果として③の展開量が決まっている。この展開量はそのまま後ろアームホールの浮きになる。

④の展開量は前アームホールにゆとりをどれだけ入れるかによる。※バスト寸法が大きい場合は展開量を多くし、小さい場合は展開量を少なくする。ここでは③の展開量の2分の1とする。(高さではなく間口で測る)

⑤の展開量は前襟ぐりをどれだけ浮かすかによる。※ここの展開量は結果的にラペルの返り線の浮きになるので、着心地だけでなく外観にも影響してくる。

――ここで示した数値は全て参考値だ。基本的には数値で決めるのではなく、パターンを開けばその分がそのまま浮きになるので、どこをどれだけ浮かせたいかは目分量で決めればよい。

「パターンマジックⅡ」で図12を作図

【図13】▼BNP(バックネックポイント)から背肩幅の2分の1をコンパスで振る。※ここでは背肩幅を38㌢で設定しているので、コンパスの半径は19㌢である。

▼後ろ肩線をコンパスまで直線で引く。その際、肩先をボディー原型より1㌢持ち上げる。※肩パッドの厚さ=1㌢。

▼前身頃のバストダーツを閉じて前肩線をつなげておき、後ろ肩線の長さからイセ分5㍉を引いた寸法で前肩線を引く。肩先は後ろ肩線と同様に1㌢持ち上げる。

▼カマ幅D~Eを決める。目安としてバスト設定寸法の8分の1に5㍉~1㌢足した寸法にする。ここではきりがいい12㌢とする。

▼カマ幅をBL上のどこにするか決める。これも決まりはなく、見た目や好みで決めればよいのだが、目安として胸幅F~Dより背幅E~Bが1㌢広くなる位置にする。

▼カマ幅D~Eの中間点から前に1㌢ずらした位置をWとし、脇線を垂直に引く。

――通常背肩幅は後ろ肩のイセ分を含めて設定するが、5㍉のイセ分ではBNP~肩先までのヨコ糸の長さは殆ど変化しないので、ジャスト寸法でよい。肩パッド分の展開は前回[3.肩パッド分の展開]の論理による展開は省略し、単純に肩線を持ち上げるだけでよい。襟ぐりのつながりを後で直せば同じこと。冒頭で述べたようにボディー原型の役割は定規の代わりであって、基本的には平面製図として考えるのがこの作図法である。

「パターンマジックⅡ」で図13を作図

【図14】▼カマ底をBLから1㌢上げる。前肩先点Tから水平の高さまでを前アームホール丈とする。同様に後ろ肩先点Sから水平の高さまでを後ろアームホール丈とする。

▼前アームホール丈の下から3分の1に点Uをとる。後ろアームホール丈の2分の1に点Vをとる。

▼T・U・W・V・Sの5点を結ぶカーブを引く。

▼WL(ウエストライン)をボディー原型のウエストから2㌢上に引く。

▼着丈をHL(ヒップライン)まで延長し、ストレート原型とする。

――アームホールのカーブを引くときは基本的にフリーハンドである。巷には複雑な案内線を入れる作図法が数多存在するが、カーブは自分で決めるのがパターンメーキングの醍醐味だぜ、と筆者は思っている。

「パターンマジックⅡ」で図14を作図

【図15】フリーハンドで引きなさいでは些か無責任なので、もう少しガイドになる線を入れておく。

▼U~Dの中点とD~Wの中点を斜めの線で結ぶ。更にV~Eの中点とE~Wの中点を斜めの線で結ぶ。

▼斜め線に接するようにカマ底のカーブを引く。

【図16】同じ結果を得るための別の方法。詳しい説明は省くが、幾何学で言う「ベジェ曲線」にあたる。

――どちらも直角に交わった2直線の間を結ぶ最も自然な曲線の引き方である。当然アームホールの形状にこれが正解というのはないので、あくまでも一つの例である。特に後ろアームホールのV~Wまでのカーブは、腕の付け根につっかえない範囲で浅くしたほうが機能性はよくなる。

「パターンマジックⅡ」[等分線_線長]機能で図16を作図

【図17】ストレート原型の完成図。カマ幅線は裾まで延長する。前ウエストダーツ位置をバストポイントから1㌢脇側に垂直に入れる。これをAタイプとする。

【図18】前回[4.作図の要点]で示した原型の扱い。ボディー原型の前中心を2㌢ずらして、それ以外はAタイプと同様に作図をする。但し、⑤の展開量は1㌢に減らす。これをBタイプとする。

【図19】ストレート原型Bタイプの完成図。前ウエストダーツ位置をAタイプと同じ位置に入れる。

6.AタイプとBタイプの違い

AタイプとBタイプは外観や着心地にどのような違いがあるのか検証する。

【図20】AタイプとBタイプを重ねた図。前後の肩先点S~Tの間隔とバストダーツ量に相違点がある。

【図21】設計における違いは、バストダーツの一部を前襟ぐりのゆとりに展開したAタイプに対し、胸幅のゆとり(いわゆる「抱き」)を前襟ぐりに平行移動させたのがBタイプである。BタイプはAタイプに比べて、より紳士服の製図に近い形状といえる。

【写真3】AタイプとBタイプに加えて、Cタイプ(Aタイプの返り線の浮きをゼロにしたもの)の3種類のパターンで実際のジャケットを作製して、外観を比較した写真。ラペル端からアームホールまでの隙間の広さが異なり、全体の印象を違うものにしている。パターン形状が最も紳士服に近いBタイプが、やはり外観でもマニッシュな印象を受ける。

――着心地に関しては着る人によって受ける印象は様々である。気になるのはBタイプの着心地だが、こればかりは言葉では説明できない。論より証拠、理屈で理解するより実際に作って確かめて頂くしかない。

「パターンマジックⅡ3D」でタイプA~Cをシミュレーション

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